ガソリンなど石油製品の急騰、小麦や大豆など原材料高騰による食品値上げ……。家計を圧迫する要因が目白押しだが、値上げの余波は旅館・ホテル業界にも及ぶ。「仕入先から(食材の)値上げ要請が来ている」「ボイラーの燃料代が5年前の2倍になった」といった声が聞こえてくる。「コストアップ分を宿泊料に上乗せすると、お客が離れてしまう」とある旅館経営者は頭を抱える。転嫁は容易ではない。リョケンは「仕入れの交渉や工夫だけでなく、献立内容の見直しなどで原価率を圧縮する工夫が求められている」とアドバイスする。
リョケンは料理や飲食の原価率が仕入れコスト高の影響で「上昇する傾向にある」と分析。
山梨県甲府市にある客室約20室の旅館は夕食に名物のほうとうを出している。ほうとうは小麦粉を使った平打ち麺が特徴だが、「値上げの動きが顕著に出ている」と社長は言う。小麦粉の価格高騰を受け、仕入れ先からの値上げ要請が来ている。名物ゆえに「出さないわけにはいかない」とジレンマを抱える。
「小麦粉や天ぷら油などは昨年と比べ、2割程度上がっている」と言うのは栃木県の旅館女将。安いところでまとめて買ったり、自家栽培している野菜を使ったりと防衛策に走る。
鹿児島のホテル支配人によると、ガス代が1立方メートル当たり5円上がり、コーヒーの仕入れ価格も上がった。「調理場に納入単価を出させ、どれだけ上がっているのか把握している最中」だ。
ボイラー燃料となるA重油価格もアップ。公衆浴場の経営者は「1リットル当たり100円を超えた。50〜60円の時代がウソのようだ」と話す。温泉を加温している旅館は「費用はばかにならない。電気料金も上がりそうで、そうなると冷房費用がまた上がってしまう」と肩を落とすも。
宿泊施設も決して手をこまぬいているわけではない。「館内にある売店やスナックでビールなどの料金を上げる施設も出ているようだ。夜中には露天風呂にふたをしたり、省エネ電球に変えたりと、そこまでやるのかという旅館もある」(リョケン)。
しかし、肝心の宿泊料の引き上げはなかなか難しいようだ。「消費者の節約志向が強まる中、上げればもっと安い旅館に流れてしまう」と危機感を抱く経営者も多い。
「コストが上がっているのでやむを得ずという理由では、(経営者の)努力不足といわれかねない」と二の足を踏む。
前出の甲府市の旅館では料理の量や品数の調整に乗り出している。「高齢者と若い人では食べる量も違う。品数が多すぎて食べ切れないという声もある。質を落とすことなく、お客さまに見合った料理提供の仕方があってもいいのでは」と模索の日々が続く。
一連の値上げ基調は収まる兆しが見えない。長引けば消費者の節約志向が一段と強まりかねず、国内旅行市場そのものの冷え込みを心配する向きも少なくない。