火山を抱える温泉観光地が課題や施策を共有する「火山温泉観光サミット」が2〜4日、神奈川県箱根町で初めて開かれた。主催は箱根町、箱根町観光協会。各地で火山活動の活発化への対応が求められる中、防災、減災のあり方や観光への活用策について情報交換。恩恵と災害をもたらす火山との共生に向け、火山に関する知識の普及、人的・経済的被害を回避する仕組みづくりなどに地域が連携して取り組む「箱根宣言」を発表した。
16都道府県の観光関係者をはじめ3日間で延べ約700人が参加。講演やパネルディスカッションには、ハワイ、ニュージーランドの火山学者を含む、国内外の観光関係者、火山、防災の専門家などが登壇した。観光地の防災対応、情報発信、災害報道、火山ガスなどさまざまなテーマで分科会も行われた。
分科会の一つ、「火山と温泉観光」をテーマにしたパネルディスカッションには、温泉観光地の関係者、危機管理の研究者が登壇した。
火山との共生、観光への活用については、北海道の洞爺湖有珠火山マイスターネットワーク副代表の川南恵美子氏(かわなみ観光副社長)が提言。「有珠山はこの100年で4度噴火。以前は観光にマイナスだとして噴火の事実を隠そうとしてきたが、2000年の噴火に伴う避難を経て、火山を観光や防災教育に生かす姿勢に変わった」。
同町では2000年の噴火以降、被災した建物などを「遺構公園」として残すなどの施策を推進。「エコミュージアム」として始めた地域づくりは現在の「ジオパーク」に発展した。08年にはガイドなどを務める「火山マイスター」を制度化。「東日本大震災以降、防災、減災をキーワードに、当地を訪れる団体などが増えた。火山を持つ海外からの訪問も増えている」(川南氏)。
危機管理のあり方に関しては、JTB総合研究所常務取締役・観光危機管理研究室長の髙松正人氏が、平常時、危機発生時などに分けて施策を提言。特に、危機発生時には情報の集約、発信を一元的に担う「情報責任者」の設置の必要性を強調。「正確な情報収集、迅速、正確、透明性のある情報発信が観光分野の危機管理のかぎ」と指摘した。
このほか長崎県の雲仙温泉観光協会の前身団体で副会長を務めた豊田康裕氏(ゆやど雲仙新湯)が1991年の雲仙普賢岳の噴火の際の風評被害の状況を説明。東京都の三宅島観光協会副会長兼事務局長の植松正孝氏は、2000年の雄山噴火以降の防災対策や観光施策を紹介した。群馬県の草津温泉湯の華会会長の小林由美氏(草津スカイランドホテル)は、火山活動で一部の観光が制約されても入込客を減少させない多様な魅力ある地域づくりの重要性を指摘した。
サミットを総括して箱根町の山口昇士町長が「箱根宣言」を発表。産学官民、温泉観光地が連携して火山への理解を深め、正確な情報を発信し、住民や観光客の安全、安心を確立する重要性や、温泉観光地が連携して経済的な被害に関する支援制度を構築する必要性を盛り込んだ。山口町長は「火山とともに生きる基本姿勢を共有し、減災へつなげていくことと、安心して楽しめる観光地づくりを進めることが必要だ」と訴えた。
火山温泉観光サミットは、箱根町の発案で「第1回」として開催された。次回以降は未定だが、課題を共有する温泉観光地などが引き継いで開催することを期待している。
「火山と温泉観光」をテーマにしたパネルディスカッション