一般住宅やマンションの空き室などを国内外の旅行者に有償で提供する民泊サービスのあり方に関して、厚生労働省と観光庁は、有識者で構成する検討会を設置し、11月27日に初会合を開いた。宿泊需給の改善にとどまらない経済活性化の視点から迅速な規制改革を期待する意見が出る一方で、衛生、治安、防災、近隣住民への影響、観光の質などの観点から一定の規制、慎重な議論を求める意見も挙がった。
検討会の座長は、東京大学大学院工学系研究科教授の浅見泰司氏。他の委員は業界団体や自治体の代表、大学教授、弁護士など15人。会合は月1、2回開催する予定。来年3月末をめどに中間報告として論点を整理し、来年の夏、秋をめどに報告書をまとめる。
初会合の意見交換では、東京大学社会科学研究所教授の松村敏弘氏が「民泊を考える上で重要な点は、宿泊需給の改善だけではなく、シェアリングエコノミーの重要なピースであるということ。遊休資産を有効に活用して経済成長に資する。GDP600兆円の目標の達成に資するようにする。関係者の利害調整に終始するのではなく、大きな目標を念頭にスピード感を持って規制改革を推進すべき」と主張した。
一方で全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の北原茂樹会長は「経済活動への良い面ばかりが挙げられているが、集合住宅(の民泊利用)にいろいろな問題が集中している。まずは国家戦略特区の大阪、東京の実証結果を見て、その上で議論を深めることが重要」と強調した。
議論や規制緩和の進め方では、涼風法律事務所弁護士の熊谷則一氏が「何らかの形で進める必要があると考えるが、何かひとたび事があると、多くの方の生命、身体に影響がある。そう考えると、一足飛びとはなりにくい。基本的にはそろり、そろりとやっていく。これまで緩和してきた部分、海外などの事案を見ていくべき」と述べた。
宿泊サービスの競争環境の平等化(イコールフッティング)などの課題では、五木田・三浦法律事務所弁護士の三浦雅生氏が「イコールフッティングという観点から見て、旅館業法の旅館・ホテルと、民泊がどう違うのか、よく議論した方がよい。旅館業法に公衆衛生と治安維持が規定されている意味を考え、今どこまでやる必要があるのか、説明できるようにした方がよい」と指摘した。
旅館・ホテル業への影響、観光の質の問題では、和歌山大学観光学部教授の廣岡裕一氏が「規制から外れた民泊は、既存の安くて良質な宿泊業を圧迫し、全体的な質を下げてしまう。民泊は当面の観光客をさばくには有効だが、長い目で見ると、日本の観光にとってよろしくない。認めるにしても何らかの枠にはめる必要がある」と訴えた。
感染症や近隣住民とのトラブルが起きた場合、現場での対応をせまられるのは自治体。神奈川県保健福祉局生活衛生部長の甲斐康文氏(副知事・吉川伸治氏の代理出席)は「旅館業法は感染症防止、治安維持の面から、本人確認、宿泊者名簿などの規定が設けられている。それらによって健全な旅館業運営、地域の公衆衛生の向上が図られてきた事実がある。民泊を活用する場合にも、本人確認を担保するような議論をお願いしたい」と要望した。
消費者保護の観点では、全国消費生活相談員協会理事長の吉川萬里子氏が「消費者に対する責任の所在はどこかを明確にしてほしい。安全、安心を基本にした制度になるような議論を」と要請した。
次回の会合では、引き続き討論を行うほか、関係者のヒアリングを予定している。
「民泊サービス」のあり方に関する検討会の初会合