観光業の風評被害 賠償範囲にまず福島


 福島原発の事故に伴い、政府の原子力損害賠償紛争審査会(会長=能見善久・学習院大教授)は、賠償の基本的な範囲を示す指針づくりを進めている。5月31日に決定した第2次指針では、観光分野の風評被害について、まず福島県内の観光業者の損害を賠償の対象として認めた。具体的な損害の判定方法などは今後提示する。福島県外の観光業者の風評被害に関しては引き続き検討されるが、周辺地域からは事故発生県と同一の基準による賠償を求める声も上がっている。

 審査会の指針は、原子力損害賠償法が策定を義務付けているもので、当事者である被害者と東京電力の個々の話し合いの目安となる。審査会は、賠償範囲として明確化できる部分から順次指針に盛り込み、7月をめどに被害全体に対する賠償の大枠を示す予定。

 過去に同法が適用されたのは茨城県東海村のJCO臨界事故(1999年)の1度だけだが、今回の事故は被害の規模、範囲が大きく、事態も終息していないなど、指針の策定には難題が多い。特に風評による観光業の営業損害では、原発事故との因果関係をどのように判定するのか、損害額の算定方法をどうするのかなど課題が山積している。

 2次指針ではまず、福島県内に営業拠点がある観光業の風評被害を賠償の範囲として認めた。旅行者のキャンセルや予約控えが、原発事故とその後の放射性物質の放出を原因とする可能性が高いとし、「原則として相当因果関係のある損害と認められる」と位置づけた。

 ただ、原発事故に加え、「東日本大震災自体による消費マインドの落ち込み」など他の原因も考えられることから、損害の有無や損害額の算定にあたっては、「他地域との比較を行うなどの検討が必要」とも指摘した。風評と自粛の区別に関する客観的な判断基準なども今後議論を呼びそうだ。

 一方で2次指針の段階では、福島県外の観光業の風評被害については結論を出さず、検討を継続することにした。福島県周辺の観光業や福島県に関係する観光業にも、損害が生じた可能性は「十分認められる」としたが、現時点では「風評被害の実態が判明していない」とした。外国人旅行者のキャンセルなどを含めて広範囲に広がった観光客の減少が、原子力損害の賠償の範囲として認められるかどうかは不明だ。

 指針の議論に伴い、福島県外からも幅広い賠償を求める声が上がっている。栃木県は5月31日、審査会の第6回会合に出席し、観光業や農業に関する風評被害の状況を説明すると同時に、知事名で政府に要望書を提出した。東京電力だけでなく、国が責任をもって賠償にあたるよう求めた上で、「事故発生県と区別することなく、同一の被害内容には同一の基準で賠償を行うこと」などを要望した。

 観光業の風評被害について栃木県産業労働観光部観光交流課は「審査会の指針、賠償の枠組みを見極めて対応する必要がある」としているが、独自の動きをみせる地域も。那須町の那須観光協会では風評被害で旅行者が激減し、いまだに回復していないとして、賠償請求を念頭に宿泊施設、レジャー施設、飲食店など320会員の損害額の集計に着手した。

 同協会の岡崎良三会長は「言葉は悪いが、泣き寝入りはできない。影響は長期化し、このままでは地域経済は疲弊し、後継者もいなくなる。賠償に対する観光業の姿勢を示す意味もあって準備を始めた」と話す。同県内では日光市の鬼怒川・川治温泉旅館協同組合も、会員の損害額を調査中で、請求への対応を理事会で協議していくという。

 賠償の対象となる被害者は相当数に上るとみられ、東京電力や政府には賠償の財源確保の問題などもあるが、被害を受けた観光事業者の救済が期待される。審査会の次回会合では、被害分野ごとに専門員を任命。観光分野では経営や法律の専門家3、4人が任命される見通しで、風評被害の判定方法や損害額の算定方法などの具体的な検討に入る。

 
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