先頃、全国の百貨店売上高が3カ月連続でマイナス成長になった旨が報じられた。これは単純に外国人観光客によるインバウンドブームの終焉ととらえることもできるが、注目すべきは外国人だけでなく、日本人の利用客まで姿を消したということだ。ある雑誌によれば、銀座の一等地にある大手百貨店も日によっては「巨大なフロアに客が2組」の有様だという。
2013年にイル・ド・フランス地域圏商工会議所が、フランス国内の観光事業者向けに外国人観光客の国別サービス・マニュアルなるものを配布した。その中で「日本人は不満があってもその場で文句を言わず、帰国してから批判する」と紹介されている。
ここから読み取れるのは、日本人の情報共有能力の高さだ。一度商品・サービスに対する悪評が立つと、瞬く間にそれが共有され、結果、多くの人々がその提供事業者を忌避するようになる。ある意味、商売人としてここまで恐ろしいものはそうない。
09年頃から、国内の大手百貨店あげてインバウンド優先へとかじを切った。冒頭の大手百貨店はそれらの中でも大規模な投資を行ったものとして知られている。ここ数年間の業績を見る限り、その戦略自体は妥当であったと言えるだろう。
しかし、時を同じくして、インターネット上では「外国人ばかりで店内の雰囲気が悪い、日本人をないがしろにする店には行きたくない」などといったコメントが散見されるようになった。それらが共有され、多くの日本人から忌避されるようになった結果が今の惨状ではないだろうか。
昨今の報道によれば、外国人観光客の興味は「モノ」から「コト」へとシフトしているという。ホテル業や飲食業など、体験型のサービスを提供する事業者としては大きなビジネスチャンスとなるだろう。しかし、従来の外国人ニーズ(サービス)を優先するあまり、足元の日本人ニーズ(ホスピタリティ)をないがしろにしては待っているのは地獄しかない。
観光立国の実現を目指し、おもてなしの国の事業者として真に大切なものは何か、今一度熟考すべきではないだろうか。
(NPO・シニアマイスターネットワーク 沖縄ブロック事務局長 株式会社光貴取締役・西宣秋)