住宅宿泊事業法(民泊新法)が来年6月15日に施行される。都道府県、保健所設置市、特別区が、施行に向けて条例制定などの準備を進めている。新法の詳細を規定した政省令は10月27日に公布されている。政省令の決定に際しては、国土交通省、厚生労働省がパブリックコメント(意見募集)を実施し、859件の意見が寄せられた。代表的な意見には両省が、運用の指針を示すガイドラインの公表に先立って、基本的な考え方を示した。
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パブリックコメントに寄せられた代表的な意見を「Q」、国交省、厚労省の考え方を「A」として、一部の内容を紹介する(Q、Aの記述は、内容が変わらない程度に変更を加えている)。国交省、厚労省の考え方は、パブリックコメントの結果が公表された10月27日時点のもの。両省は民泊新法の運用の指針となるガイドラインを近く決定、公表する予定。
条例の制定
法第18条と政令では、都道府県などが民泊による生活環境の悪化を防止するため、「土地利用の状況」などを勘案して区域を定め、「宿泊需要の状況」などを勘案して民泊の期間を制限できることを定めた。
条例で区域や期間を制限する考え方などの詳細はガイドラインに示される。制限する区域や期間は、例えば、学校や保育所の周辺地域の平日、別荘地内で別荘所有者の多くが利用する繁忙期、山間部などで紅葉シーズンや道路渋滞が多発する時期などを挙げるとみられる。
Q 区域、期間の指定について、より具体的に示すべきではないか。
A 区域と期間の指定にあたっては、それぞれの地域の実情を踏まえるべきものであり、全国一律の基準を定めるべきとは考えていない。
Q 区域、期間だけでなく、家主居住型、家主不在型による制限も可能にすべきではないか。
A 管理業者への委託義務などにより家主不在型であっても、家主居住型と同様に事業の適正な運営の確保が図られていることから、家主居住型と家主不在型を区分することは適切ではない。
ただし、例えば、家主不在型の民泊の急激な増大に起因して生活環境が悪化するような特別な場合など、合理的に認められる限度において、類型ごとに制限することまでを否定するものではない。
Q 民泊の実施期間をゼロ日とすることは可能か。
A 本法は、住宅宿泊事業を適切な規制の下、振興するという側面を持つものであり、ゼロ日にすることは適切ではない。
Q 都道府県が条例を制定しようとする場合、市区町村の意見を聴取する際に、議会の意見も聴取されることが必要と考える。
A 市区町村の意見を聴取する際に、議会の意見も聴取することが望ましい旨についてガイドラインに示す予定。
住宅の定義
法第2条に基づく省令では、住宅宿泊事業を営める住宅を(1)現に人の生活の本拠として使用されている家屋(2)入居者募集が行われている家屋(3)随時その所有者、賃借人、または転借人の居住の用に供されている家屋―としている。
Q 「別荘」は「住宅」になり得ないのか。
A いわゆる別荘については、省令で規定する「随時所有者または賃借人の居住の用に供されている家屋」であり、要件に該当するものと考えられる。当該家屋の考え方は、ガイドラインに示す予定。
Q 民泊目的のみで嘘の募集をしている人ばかりが増えてしまう可能性が高い。これでは新築でもできてしまう。
A 「入居者の募集が行われている家屋」の場合、住宅宿泊事業の届け出時には、当該募集が行われていることを証する書類などを求めて確認することとしている。
Q 住宅宿泊事業が年間180日以下では、事業として成り立たない。年間提供日数制限をなくしてほしい。
A 人を宿泊させる日数を年間180日を超えないものとすることで、1年間の過半は、宿泊事業が行われないこととなり、宿泊に用いる施設が住宅としての性質を確保できるものと考える。
住宅宿泊事業とは、住宅において、一時的に人を宿泊させる事業であり、日数制限を受けることなく、人を宿泊させる事業を行う場合には、旅館業法に基づく許可を受けることが必要だ。
衛生、安全の確保
法第5条、省令では衛生の確保について、居室の床面積が宿泊者1人当たり3・3平方メートル以上で、定期的な清掃、換気を行うことを定めた。法第6条などでは、火災など災害発生時の対策を講じるように定めた。
Q より具体的に示す必要がある。
A レジオネラ症対策など公衆衛生などの観点から最低限必要な項目については、今後ガイドラインなどで示す。
Q 非常用照明器具の設置について、コストが高いため、義務化すべきでない。
A 家主不在の場合などには、非常用照明器具の設置などの措置を講じることにする。
A 届け出住宅における火災警報器は消防法例に基づき対応される。
宿泊者名簿
法第8条、省令では、住宅宿泊事業者に宿泊者名簿の備え付けを義務付けている。
Q 旅館業の施設に対しては、外国人旅行者の宿泊の際、旅券の写しを徴収するよう厳しく指導されている。
A 外国人の本人確認の方法については、旅館業法の取り扱いと同様、宿泊者が施設を利用する前に、旅券の提示を求めるとともに、旅券の写しを宿泊者名簿とともに保存することと考えている。
Q 本人確認は、宿泊施設内で、必ず対面で行うことを義務付けるべきではないか。
A 本人確認については、特区民泊の取り扱いと同様、対面または対面と同等の手段で行われる必要があり、適切な本人確認方法の考え方についてガイドラインなどで示す予定。
標識の掲示
法13条、省令では、住宅宿泊事業の届け出住宅ごとに公衆の見やすい場所に指定の様式の標識を掲げることを定めた。
Q 場所の具体例はあるか。
A 玄関などを想定しているが、詳細は検討の上、ガイドラインなどに示す予定。
定期報告
法第14条、省令では、住宅宿泊事業者は、国籍別の宿泊者数など宿泊の実績を2カ月ごとに都道府県に報告することを義務付けた。
Q 定期報告は1カ月に1回とすべきではないか。
A 年間180日という実施日数の制限があり、その遵守状況の確認の必要があることから、事務負担も考慮し、定期報告の頻度について2カ月に1回が適切であると考える。
管理業者
家主不在型の届け出住宅などの管理は、国土交通相の登録を受けた住宅宿泊管理業者に委託する必要がある。法第25条、省令では、その登録が拒否される場合として、業務を適切に実施するために必要な体制が整備されていない場合を挙げている。
Q 住宅宿泊管理業務の適切な実施に必要な体制を明示してほしい。
A 宅地建物取引業の免許を有する者、賃貸住宅管理業の登録を受けた者、マンション管理業の登録を受けた者などであることのほか、常時苦情への応答が可能であることなどを想定しており、ガイドラインに具体的に示す予定。
仲介業
法第46条では、民泊仲介サイトなどを運営する住宅宿泊仲介業に観光庁長官への登録を義務付けている。
Q 違法民泊がなくなるよう仲介事業者のサイトから違法物件の削除を義務化すべき。
A 仲介業の登録の拒否事由として、不正または不誠実な行為をするおそれのある者を規定しており、届け出済みの物件であることの確認を怠る行為をしている者を位置づけることとしている。
また、仲介サイトの利用者が予約しようとしている物件が合法的なものであることを確認できるようにするため、住宅宿泊仲介契約の締結前の説明事項に、住宅宿泊事業者の届け出番号などを含めることが適当であると考える。
仲介サイトの情報の記載事項などの詳細は、検討の上、ガイドラインに示す予定。