震災と原発事故から11年、明と暗 「JATAの道プロジェクト」同行ルポ


一時帰宅の際使用された防護服(東日本大震災・原子力災害伝承館)

復興は道半ば 時が止まっている地区も

 日本旅行業協会(JATA)が主催する東北地方の復興支援活動「JATAの道プロジェクト」が2月24~25日、環境省が整備した自然歩道「みちのく潮風トレイル」の宮城県名取市ルートを中心とした太平洋沿岸地域や、福島県の福島第1原発事故被災地エリアなどを対象に行われた。

 同プロジェクトは観光による交流を活発にし、地域経済を振興するのが目的。2014年から震災10年後の21年3月までの7年間、みちのく潮風トレイルを活用し、会員会社が実地踏査に取り組み、商品化を目指した。延べ498人が参加している。8回目となる今回はその総括という位置付けだ。

 原優二副会長(風の旅行社社長)が団長となり、会員会社・団体、地元自治体、環境省・観光庁などから約50人が参加した。当初、福島第1原発処理水の現場を視察する予定だったが、中止となった。

 新型コロナウイルスの感染防止のため、参加者に事前に抗原検査を義務付けるなど対策を徹底して実施。

 集合地点のJR仙台駅からまず向かったのは宮城県名取市の閖上地区。震災で壊滅的な被害を受け、かつて5千人ほどが住んでいた町は更地になり、閖上中学では14人の生徒が津波の犠牲になったという。

 いまその地には飲食・物販を中心に26店舗が出店する「かわまちてらす閖上」(19年4月オープン)や水防活動の拠点ともなる震災復興伝承館(20年5月オープン)、SUP体験教室などが整備され、21年3月には国土交通省が選定する「かわまち大賞」を受賞している。

 山田司郎・名取市長は、周辺に市サイクルスポーツセンターや名取トレイルセンター、仙台空港などもあることから「人力で旅する文化を世界に発信していきたい」と意欲を示した。

 名取トレイルセンターはみちのく潮風トレイルを歩く上で必要な情報やロングトレイルと歩く文化を発信する施設。

プロジェクト参加者(名取トレイルセンターで)

 なお、みちのく潮風トレイルは青森県八戸市から福島県相馬市までの、4県28市町村をつなぐ全長千キロを超えるロングトレイルで、名取トレイルセンターの板橋真美副センター長によると、これまで60人が踏破し、145人が挑戦中という。同トレイルは東北の魅力をアピールでき、観光復興にも寄与するとして期待されているだけに、コロナ収束を待ち望む声は大きい。

 この日の宿泊先は秋保温泉(仙台市)のホテルニュー水戸屋で、夕刻からシンポジウムが開かれた。

 原団長は「コロナ禍で厳しい環境にあるが、こういう時こそ旅が人々の新しい発見や生活の潤いをもたらし、喜びを与え、心の豊かさを増進させることを再認識し、旅の力を発揮させる時だと思う」と述べるとともに、アフターコロナではトレッキングのようなアウトドア、健康指向の旅が求められてくるとの認識を示した。

シンポジウムで主催者あいさつする原団長

 シンポジウムでは環境省やNPO法人みちのくトレイルクラブによるみちのく潮風トレイルの魅力や、旅行会社のトレイル関連の商品などが紹介された。

 翌日は福島県に移動し、まず双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館(20年9月オープン)を見学。

 原子力災害を中心とした展示や語り部講話を通じて、震災の記録と記憶を教訓として防災・減災に役立てるのが施設の目的で、学校に残された学用品や川内村に避難した富岡町民が黒板に残したお礼のメッセージなどが展示されている。参加者は「津波や原発事故の恐ろしさがヒシヒシと伝わってくる」と真剣な表情で見入っていた。

一時帰宅の際使用された防護服(東日本大震災・原子力災害伝承館

 双葉町は原発事故で全町避難が続いていたが、6月には町中心部の避難指示が解除されて住民帰還が始まる予定だ。

 一行はその後、富岡町のホテル蓬人館に。途中、国道6号線に乗り、帰還困難区域を通った。11年がたった今でも、人が住まず、荒れ果てた住宅や商店が放置されている。原発事故の怖さを改めて感じるとともに、復興は道半ばということを実感する。

 蓬人館では経済産業省福島復興推進グループによる福島第1原発の廃炉の現状やNPO法人「富岡町3・11を語る会」で語り部を務める渡辺好さんの講演を聞いた。

 第1原発では県内の住民(個人)や、東電の利害関係団体などを対象とした個別団体の視察を受け入れているが、JATAによると、旅行会社に対しては4月をめどに予約専用サイトを立ち上げ、ツアー客の受け入れを始めるようだ。

 この後、富岡町でJR夜ノ森駅周辺の住宅地を見て回った。帰還困難区域に居住エリアを設ける特定復興再生拠点区域(復興拠点)だが、ひと気はなく、廃屋が目立つ。桜の名所だが、花見でにぎわう日は来るのだろうかという思いにとらわれた。

JR夜ノ森駅周辺の住宅地。廃屋が目立ち、人の姿が見当たらない

 震災、原発事故からの復興はまだ終わっていないという認識を新たにした今プロジェクト。JATA関係者は「今回の訪問で学んだことを今後の誘客に生かしてほしい」と話した。

【内井高弘】

 
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