「デジ田構想」の進展と各地の先進事例 デジタル庁デジタル統括官 村上敬亮氏に聞く


デジタル庁デジタル統括官 村上敬亮氏

需要と供給をデータでつなぎサービスを的確に届ける

 デジタル庁の村上敬亮デジタル統括官はインタビューで、「人口が減る局面では、需要と供給をデータでつなぎ、ニーズを確実につかみ、サービスを無駄なく、的確に届けることが不可欠だ」と強調。「闘うべき相手は売上高ではなく、生産性になる。デジタルとデータが絶対必要になる」と提唱した。インタビュー内容は次の通り。

 ――各地で展開されている「デジタル田園都市国家構想」の事業プロジェクトについて、手応えはどうか。

 「みんな、答えが出る手前で格闘している最中だ。デジタル化の取り組み初期段階ではどうしても、『高齢者が使いにくい』『アプリを入れる方が面倒くさい。アナログでいい』といった声が出る。でも、徐々に慣れ、普及に加速がかかると、『何でこんなことやってなかったんだろう』と当たり前になる。例えば、今では、コンビニキャッシュレスは当たり前になってきた。でも、5年前はそうだっただろうか。デジタル化の難しいところだ」

 ――交通、観光など各分野の先進事例を挙げてほしい。

 「例えば、前橋市の『マイタク』(デマンド相乗りタクシー、交通弱者向け運賃補助)。マイナンバーカードを乗務員の携帯端末にかざせば、自動的に高齢者割引が受けられる。他方、東京都某区では、束で渡された社会福祉タクシー券を、100円券何枚、300円券何枚ともぎって渡す。渡されたタクシー会社側では、従業員が丁寧に券の枚数を数え、さらに自治体の人が必要に応じて数え直す。数え間違いもないとは言い切れない。これらの作業は、マイナンバーカードに置き換えれば瞬時で済む。券をもぎっても、マイナカードでピッとやっても得られる収入は同じだが、従業員の残業時間は大きく変わる。生産性の向上は明らかだ」

 ――観光の好事例は。

 「(静岡県三島市、熱海市、函南町の広域で)『伊豆ファン倶楽部』が2月に開始する。交通事業者では、伊豆箱根鉄道などタクシー協会のメンバーが入っている。使うのはシンプルなポイントアプリだ。旅館、お店などにQRコードを置く。観光客は来店して5ポイント、タクシーに乗って5ポイントと、どんどんポイントが得られる。このポイントと引き換えに、自治体などの地域の運営主体が、匿名化された行動履歴を取得する」

 「観光客がいつ、どの店に行き、食事をし、タクシーに乗ったのか、単価を1500円まで上げても金を使うのか、さまざまな分析につながる基礎データがこの仕掛けで地域に集まってくる。複数の決済事業者にデータが散逸しないところがミソだ。たまったポイントの利用メニューには、『人気店の大将が作る裏メニュー』とか、『裏動線から入れる楽寿園』(三島市立公園)など、ポイント取得者にしか提供されない伊豆の隠れた魅力を詰め込んだメニューが提供される」

 ――成功事例に共通点は見いだせるか。

 「需要と供給をデータでつなげていること。これは、教育や医療、モビリティ、買い物、さまざまな分野に共通する。なぜなら、人口減少が始まっているからだ。需要が増え、地域単位での需要密度が上がっているときは、例えば、バスの本数も増やせるし、その中でニーズに対する調整も効く。しかし、人口が減る局面ではそうはいかない。車両もドライバーも増やせない中で、ニーズを確実につかみ、オンディマンド(予約制・乗合形態)でサービスを無駄なく、的確に届けることが不可欠だ」

「ただし、『人口が減るから、もうからない』ということはない。顧客が8割になっても、従業員が半分で済めば、むしろ1人当たりの給料は上げられる。逆にインバウンド(訪日外国人観光客)効果で顧客が3倍になっても、従業員数を3倍にしてしまっては、給料は増やせない。ここで課題となるのは、需要も供給も両方減る中で、どう的確にマッチングするかだ。これは、需給両方が増えているときと比べて格段に難しい。闘うべき相手は売上高ではなく、生産性だ。そのためには、人口減少下では、デジタルとデータが絶対必要になる」

 ――タクシーの業界は4月から、「日本型ライドシェア」(自家用車のタクシー)の導入を計画しているが。

 「導入するドライバーには雇用契約が必須か、業務委託でいいのか。いろいろ実務的課題が残されているが、大きなかじは切られたと思う。反対派の代表格のように見られてきた東京ハイヤー・タクシー協会の川鍋(一朗会長)さん自らが、『俺たちが最初にやろう』と動き出してくれた。東京駅、新橋駅などの乗り場の乗車効率の改善など、ライドシェアとは関係のない改善策をしっかりと打ち出しつつ、ライドシェアについても、自らの考えに基づくサービスを公表した」

 ――自然災害が頻発する中、デジタル技術を活用した地域インフラの強靭(きょうじん)化の施策について。

 「能登半島地震を受け、1月末に(交通系ICカードの)『Suica(スイカ)』の力を借りた協力パッケージを発表した。カードを配布するときに、避難者の氏名などの情報を登録してもらい、被災者の居場所や状況の把握に役立てる構想だ。被災当日からしばらくたち、被災者が避難所から離れ始めたため、居場所や行動の把握が難しいことが課題になっている。どこに支援情報を届ければいいのか、義援金は誰に配り、誰に配っていないのか、ここでも被災者に関するデータの把握が、効果的な行政サービス提供のカギを握っている」

 「例えば、初期の支援物資の供給は、水や最低限の食料など、とにかく物量の確保が重要だった。だが、今や既に飲み水や食料の供給は量的には足りている。今後は、きめ細かい物品管理が必要となるが、実は、各避難所で、昼間と夜で何人いるか、それぞれどこで何をやっているかなどの把握に悩んでいる。泊まっているのか、風呂だけ入りに来たのか。支援物資を取りに来たのか。洗濯は困っていないのか。県外に出たのか。だから、それぞれの利用シーンでスイカをピッとやってもらう。各時点での居場所が特定できるようになる。携行率が上がったあかつきには、マイナンバーカードが果たすべき役割だが、今回の取り組みでも重要な基礎データが得られるだろう」

 ――交通、医療など分野ごとに進めるデジタル化と連携の進展について。

 「健康増進教室を開催しても、通うときに使える公共交通がなければ、運転免許をまだ返していない元気な高齢者しか集まることができない。本当の地域の課題解決には、分野を超えた連携が必要だ。しかし、そのための分野をまたぐデジタル基盤作りは、単独事業者ではなかなか回収できない。その成否は地域の合意力にかかっている。例えば、駅から遠い所にある病院は、タクシーがあるから病院が成立しているのか、病院があるからタクシーが成立しているのか。突き詰めると微妙な問題だ。人口増加局面であれば、双方のあるべき分担を細かく調整せずとも、大まかなままでも合意を得ることができるが、人口減少局面ともなると、病院とタクシーの支え合いの構図をきめ細かに分析し、フェアな費用負担をデータに基づいて整理し、支え合わなければともに立ち行かない。分野を超えたデータの連携、共有が必要だ」

 「しかし、地域の小規模な公共交通事業者では、データを捕捉するためのデジタル基盤に出す資金がない。他方で、著名なタクシー配車アプリ事業者は、人口が減るエリアには出たがらないだろう」

 「自分は『共助のインフラ』と言っているが、こうした協調すべき領域では、みんなで需要データを捕捉するために協力して取り組んでいくことが必要になる。そうでなければ、それができる資本体力を持った企業に、地域の公共交通をオーバーライド(置き換え)されるしか道がない。米Uber(ウーバー)は正義か、味方かみたい話になる。黒船論の是非を問うような議論はできれば避けたい。僕らの問題なのだから、地域の協力を引き出し、共助のインフラで、予約・配車管理や需要の捕捉に取り組むべきだ。赤字バス路線を無理して維持せず、その財源は新たなオンディマンドベースのライドシェアに振り向けるなどの助けも必要。地域の暮らしを守るため、さまざまな生活を支えるサービスが、当事者意識を持ち、協力して未来に向かっていくことが、今こそ強く求められていると思う」

デジタル庁デジタル統括官 村上敬亮氏

 
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