能登半島地震で大きな被害を受けた和倉温泉(石川県七尾市)で3日、「和倉復興めぐる市」と題するイベントが行われた。各旅館で使われなくなった食器をはじめ、さまざまな備品を廉価で販売。遠方からの買い物客を含めて多くの来場者でにぎわった。イベントを主催した和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会の多田直未・同イベント実行委員長(美湾荘社長)は「温泉地が忘れられないように、今後もイベントを続けていきたい」と話す。
会場となった「和倉温泉お祭り会館」には、同温泉の旅館5軒(加賀屋、美湾荘、多田屋、はまづる、宝仙閣)が小間を設置。地震による被害で休業を余儀なくされる中、不要になったり、半端になったりした食器や小物類、家具などの備品を廉価で販売した。
午前11時の開場を前に、お目当ての品を手に入れようと会場前には長蛇の列ができた。混雑によるトラブルを避けようと、開場当初は入場者数を制限するほどの盛況ぶりだった。
地元住民にとどまらず、遠方からも買い物客が訪れた。愛知県から来たという夫婦は「10時間かけて、このイベントのためにここまで来た。以前泊まったことがある旅館で出された食器を買ったほか、さまざまなものを衝動買いしてしまった」とニッコリ。
出店した旅館の従業員は、足りなくなった品物を宿から急きょ持ち寄るなど、顧客への対応に汗を流していた。
食器や備品など、旅館の業務用品を廉価で販売した
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多田直未・同イベント実行委員長に話を聞いた。
多田委員長
――イベントの目的を改めて。
「地震による大きな被害を受けて、建物の解体が行われますが、再建時には今の時代、どうしても規模が縮小の方向に向かいます。その中で、食器などの品物も持て余してしまうものが出てきます」
「地震によって割れてしまい、数が半端になった食器もあります。旅館では半端かもしれませんが、ご家庭や飲食店ならば問題なく使えるのではないでしょうか。半端だからといって捨ててしまうのはしのびない。地震による被害と、本来ならば捨てなくてもいいものを捨ててしまう。二重に心が痛むところでしたが、どこかで使っていただけるとしたら本当にうれしいです」
「温泉地の復興ビジョンのキーワードは『めぐる』です。和倉温泉に来ていただき、能登半島を『めぐる』、そうしてもらうことで経済が『めぐる』、そして温泉に入って体に血が『めぐる』と、いい循環をつくっていきたいです。食器など物品もいい具合に『めぐって』いただければと思います」
――温泉地復興への道のりは。
「まだまだ先は長いです。工事の段取りがつかないところがほとんど。工事関係者の人手が不足していたり、建築資材が高騰していたりと、心配事がたくさんあります」
――多田さんの宿「美湾荘」は。
「今は復旧業者さんの宿泊を、無事だった館で受け入れています」
「部分解体を今月から始めますが、来年いっぱいかかります。そこから建て直しに入り、1年半から2年。再建は3年後を考えています。従来の8階建てから規模を縮小して5階建てにする予定です」
――国などの行政、一般客に訴えたいことは。
「行政にはしっかりと予算を付けて、スピードアップして物事を進めていただきたい。早く復旧できるように、サポートをお願いしたいです」
「お客さまには和倉温泉のことを忘れないでいただきたい。忘れられないように、私たちはこのようなイベントを今後も続けていこうと考えています」
「今まで旅館が集まってのイベントはなかなかできなかったのですが、今回とてもいい具合にできました。来年以降、復興してからもイベントを続けていきたいと思います」
「必ず復興」「復興するぞ」と自らを鼓舞する張り紙も