「温泉文化」ユネスコ登録を 日本温泉協会 多田計介会長に聞く


多田会長

温泉を次代へ、世界に発信 人材確保、観光立国も推進

 今年6月、日本温泉協会の会長に多田計介氏(石川県七尾市・和倉温泉、ゆけむりの宿美湾荘会長)が就任した。今後の協会運営、重視する取り組みなどについて聞いた。

 ――能登半島地震で地元の和倉温泉、自身の旅館が甚大な被害を受けたが、会長職を引き受けられた。

 「旅館の経営は、娘である社長(多田直未氏)へのバトンタッチが済んでいて、私はアドバイザーのような立場。今は社長を先頭に、前向きに宿の復興に取り組んでいる。日本温泉協会の会長就任についても、社長から『がんばってみたら』と言われたので、後ろ髪引かれることなく、引き受けさせていただいた」

 「温泉に関しては、旅館業という家業と深くつながっているというだけでなく、当家はもともと和倉温泉の配湯会社に縁が深い。和倉温泉合資会社というが、設立時の社長は私の祖父で、和倉温泉の振興に大変貢献した方だったという。父もこの会社の社長を務めた。地元の皆さんからも温泉との関わりが深い家なのだから、日本温泉協会の会長をがんばってこいと言われている」

 ――日本温泉協会では副会長のほか、「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産への登録を推進する委員会の委員長も務めてきた。

 「コロナの厳しい時期を含めて3期6年を務められた前会長の笹本(森雄)さんをはじめ、皆さんには勉強させていただいた。現執行部では、常務副会長の石村(隆生)さん(神奈川県・箱根温泉郷)をはじめ、しっかり支えてくれる役員の皆さんがいるので心配していない。温泉文化のユネスコ無形文化遺産への登録については、民間ベースの推進母体である全国推進協議会の事務局が、人員、体制面の都合もあり、日本温泉協会から全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会)に移ったが、温泉文化を国民的な資産として位置付け、世界に発信していく取り組みは、日本温泉協会にとって大きな意味を持つ活動だ。日本温泉協会の学術部の先生方、協会が設置している検討会の有識者委員の皆さまにもご検討いただき、温泉文化をうまく整理して登録を実現したい。引き続き協会の重点事項として取り組む」

 ――温泉文化をユネスコ無形文化遺産に登録する意義とは何か。

 「日本の温泉が、世界から文化的な価値を認められる貴重な機会になる。古くから人々が親しみ、育んできた温泉文化は、日本人にとってあまりに身近で、当たり前のもののように思われるが、温泉宿の後継者不在や人手不足が各地で問題になるなど、その継承にはさまざまな課題がある。登録はそうした課題解決のきっかけになるのではないか。私たち温泉事業者の地位向上にもつながり、温泉宿を維持し、次代に温泉文化を引き継ぐことにつながる。観光政策の視点では、温泉はインバウンドの地方誘客の上で重要な観光資源であり、観光立国の実現に結び付き、それが温泉文化を守ることにもなる。登録の実現に向けては、与党の国会議員でつくる推進議員連盟や、登録推進を応援する知事の会にも支援していただいている。関係団体と連携し、国民の皆さまの賛同を得て実現したい」

 ――地熱開発が各地で推進され、温泉資源への影響が懸念されている。
「地元における合意形成が何より大事だ。そのためには開発事業者による客観的な情報公開が不可欠だ。その一方で、私たちも温泉の状況について科学的なデータを蓄積していく必要性を感じている。湯量、湯温などを常時計測する温泉モニタリング装置の普及などが重要だ。そうしないと地熱発電開発に伴って温泉に減温、減衰が起きても、その変化を数字で示せない。補償を求める上でも重要な課題だ。温泉に関する知見をさらに深めながら、日本の温泉がおかしくならないよう、関係機関にきちんと意見を述べていきたい」

 ――協会会員の維持拡大への取り組みは。

 「私は全旅連の会長を3期6年(2017~22年度)にわたって務めさせていただいた。その間、多くの素晴らしい皆さんに出会うことができた。そうした皆さんにもお声掛けし、日本温泉協会の方を向いてもらえるよう努めていきたい。そのためにも事業活動を活性化していきたい」

  ――会員、関係者に呼び掛けたいことは。

 「観光立国の推進に向けて、皆さんがそれぞれの役割を果たしているが、日本温泉協会の役割は、温泉資源の保護、適正な利用の促進、そして国民保健、観光振興への寄与ということになる。温泉は次代に引き継ぐべき大事な観光資源と確信している。チーム温泉、チームジャパンで観光立国の実現に取り組みたい」


多田会長

 
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