「観光と宿泊業」 全旅連研修会で観光庁2氏が説明


47都道府県旅館ホテル組合理事長らが出席した研修会

 全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連、多田計介会長)は8月26日、東京の都道府県会館で常務理事、理事合同研修会を開いた(先週号既報)。全旅連の中小宿泊施設観光総合対策委員会の事業や外国人労働者の雇用促進に向けた取り組みをそれぞれの担当役員らが全旅連常務理事の全国47都道府県旅館ホテル組合理事長らに報告したほか、観光庁の2氏が「観光先進国を目指して」「宿泊業の現状および今後の取り組みについて」と題して国の観光政策と宿泊業の観光客受け入れ態勢強化に向けた取り組みを説明した。観光庁の説明の要旨を紹介する。

 「観光先進国を目指して」(村田茂樹・観光庁観光地域振興部長)

 「観光立国」の意義は、急速な成長を遂げるアジアをはじめとする世界の国際観光需要を取り込むことにより、日本の力強い経済を取り戻すこと。諸外国との双方向の交流を通して国際相互理解を深め、わが国に対する信頼と共感を強化する狙いもある。国際社会での日本の地位を確固たるものにするため、極めて重要だ。

 日本の定住人口(1億2644万人)1人当たりの年間消費額は127万円。これを旅行者の消費に換算すると、外国人旅行者8人分(1人当たり消費15万3029円)、国内宿泊旅行者23人分(同5万4300円)、国内日帰り旅行者73人分(同1万7285円)に当たる。消費について、定住人口1人の減少分を外国人旅行者8人の拡大で補える計算だ。

 これまで政府は2003年のビジット・ジャパン・キャンペーン開始から、08年の観光庁発足、13年の観光立国推進閣僚会議設置、15年の第1回「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」開催と、観光立国推進に向けた取り組みを進めてきた。

 16年は、同構想会議で「明日の日本を支える観光ビジョン」を決定。この中で訪日外国人旅行者数を20年に4千万人、30年に6千万人とするなど新たな目標を設定した。

 ビジョンで掲げた目標の達成には、施策の一層の推進が不可欠。そのため1年間をめどとした政府の行動計画「観光ビジョン実現プログラム」を毎年、観光立国推進閣僚会議で決定、実行している。

 今年6月14日の第11回観光立国推進閣僚会議で決定した「観光ビジョン実現プログラム2019」の主要施策は(1)外国人が真の意味で楽しめる仕様に変えるための環境整備(2)地域の新しい観光コンテンツの開発(3)日本政府観光局と地域(自治体、観光地域づくり法人<DMO>)の適切な役割分担(4)地方誘客・消費拡大に資するその他主要施策。

 (1)では観光地や地方鉄道、文化財・国立公園などでの無料Wi―Fi整備、多言語対応、キャッシュレス対応、トイレの洋式化など。(2)では皇居東御苑など公的施設の公開時間延長、迎賓館の一般公開、「城泊」「寺泊」など泊まって楽しむ体験型宿泊コンテンツの開発、ナイトタイム活性化など。
また(4)では地方の免税店拡大、MICE誘致、IR整備などに取り組んでいる。

 「宿泊業の現状および今後の取り組みについて」(多田浩人・観光庁観光産業課長)

全国の宿泊施設数は昨年3月現在で8万2150施設。長く減少傾向にあったが、2016年を底に上昇に転じている。このうちホテルは1万402軒、旅館は3万8622軒。ホテルは5年間で6%増加、旅館は11%減少。簡易宿所は27%増と大幅に増加している。

 今年1月から来年7月までの開業予定ホテル数は全国で576施設、9万6054室。東京、近畿を中心に相当数の開業が予定されている。

 宿泊施設への延べ宿泊者数は昨年、5億3800万人泊。前年比3.2%増加した。このうち外国人は9428万人泊で、同18.3%増加。外国人の増加が全体を押し上げている。

 外国人の国・地域別延べ宿泊者数の構成比を都道府県別に見ると、東北では台湾、三大都市圏では中国、九州(鹿児島を除く)では韓国からが最も多いなど、地域により顕著な違いが表れている。

 都道府県別の延べ宿泊者数を宿泊施設タイプ別で見ると、日本人の旅館の利用はほとんどの都道府県で減っているのに対し、外国人はほとんどが増えている。

 訪日外国人旅行者の意識調査によると、宿泊したい施設(複数回答)は日本旅館が70%と、2位の「豪華で快適な高級ホテル(西洋式)」(39%)を大きく上回った。ただ、実際の宿泊は55%とギャップがある。ここを分析、改善する必要がある。

 訪日外国人旅行者のうち、高齢者(65歳以上)の数は昨年が167万7千人で、全体に占める割合が5.6%。割合は横ばいだが、数は伸びている。訪日外国人旅行者数上位国の高齢者人口は今後も増加が見込まれ、外国人の高齢者をどう受け入れるかが宿泊施設にとっても課題といえる。

 調査によると、70歳以上のシニア層が旅行へ行く条件は「少ない乗り換え回数」「旅行行程の詳細」「交通乗降・送迎など現地での移動サポート」が上位となった。宿泊施設のバリアフリー化による移動の円滑化や詳細情報の発信を行う必要がある。

 観光庁は、全ての訪日外国人旅行者がストレスフリーで快適に宿泊できる環境を整備するため、旅館・ホテルなどが実施する客室や共用部のバリアフリー化への取り組みを支援している。例えば、手すりの設置や段差の解消など、客室の必要最低限の改修には100万円を上限に定額補助。車いす使用者用客室の整備など、客室の大規模改修には500万円を上限に2分の1の補助を実施している(今年第2期募集。公募は8月2日で終了)。

 住宅宿泊事業法の施行から現在までの住宅宿泊事業(民泊)の届け出件数は1万9436件(8月15日時点)。法施行日(昨年6月15日、2210件)の約8.8倍となっている。届け出数のうち、事業廃止件数は1325件で、現時点での届け出住宅数は1万8111件。

 仲介サイトへの掲載物件について、仲介事業者に報告を求めるなど適法性確認の取り組みを行っている。適法と確認できなかった物件については掲載を削除するよう指導している。違法民泊の仲介防止対策は今後も強化する。

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