辰野建築の和風宿
第817回よその旅館ホテル
──一番の売りは。
「築103年になる本館の建物です。東京駅などの設計で知られる辰野金吾が手がけた堺・大浜の保養施設『潮湯』の別館を昭和10年に天見に移築したものです。辰野といえば西洋建築ですが、当館は数寄屋風です。現存する和風の辰野建築は、奈良ホテル、武雄温泉、当館の3軒だけ。03年には国の有形登録文化財となりました。シンプルな和風建築ではありますが、辰野風の『遊び』も随所に見られ、モダンな雰囲気も感じていただけます」
「3千坪の日本庭園も当館の魅力の一つです。春には100本近い桜が、初夏にはサツキやツツジが咲き誇り、秋には紅葉が広がります。どの季節もお部屋から美しい眺めを楽しんでいただけます。当館はなんばから急行電車で40分ほどの立地なのですが、同じ大阪とは思えない自然に囲まれています。近くの天見川ではホタル観賞もできます。今年はもう5月末から姿を見せ始めているんですよ」
──誘客は。
「一軒宿のため大がかりな宣伝はできないのですが、口コミサイトやブログなどで高い評価をいただけていることで、以前はご縁のなかった年代や地域のお客さまもお越しくださるようになりました。これは外国人客も同じです。4、5月の平日は半数以上が外国からのお客さまでした」
──経営の課題は。
「築100年を超える木造建築のため、改修の負担が大きく、新たな設備投資にまで手が回らないのが悩みです。そこで現在、クラウドファンディングの仕組みを利用して、露天風呂の設置を計画しています。旅館は日本文化の結集。お客さまの要望にこたえつつも、伝統文化の良さを伝える存在でありたいですね」
【13室、1泊2食税別1万5千円から】