【ちょっとよろしいですか 135】 新刊「宿帳が語る昭和一〇〇年 温泉で素顔を見せたあの人」を上梓しました 山崎まゆみ


 6月5日に新刊『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)を出版しました。月刊「潮」で2年間連載した「宿帳拝見―『あの人』が愛した湯」をまとめたもので、昭和を代表するスターたちの温泉宿での滞在秘話をつづった全24編を収録しています。

 国民的アイドル・西城秀樹がファンとの集いを福島県猪苗代で開催した時の様子。

 福井県あわら温泉「べにや」には冬のカニの時期に多くのスターが訪れました。「べにや」をこよなく愛した志村けんは、毎年正月にひとりで来ては、宿の子供たちと遊び、石原裕次郎と渡哲也は「石原軍団」と共に慰安旅行の常連でした。

 ドラマ「夢千代日記」の撮影地・兵庫県湯村温泉には、出演者だった樹木希林の細やかな気配りのエピソードが残っていました。

 映画「男はつらいよ」で知られる渥美清は、撮影で訪れた佐賀県古湯温泉で喜劇役者の”粋”な姿を見せました。

 この他にも、松田優作、八千草薫、夏目雅子、田中邦衛、忌野清志郎、美空ひばり、高倉健、小津安二郎、黒澤明、大林宣彦、山下清、岡本太郎、北大路魯山人、松本清張、開高健、田中角栄、ジョン・レノン夫妻など、スターたちの「素顔」が垣間見えるエピソードと滞在中の写真が多数掲載してあります。日本人は、温泉に入れば「素顔」をさらけ出してしまうもの。だから日頃、よろいを着ているスターたちも、温泉宿だから心から寛げたのです。

 そのような昭和の大スターたちのエピソードを積み上げることで、「昭和」という時代そのものを捉えました。そう、来年2025年は、昭和100年となります。

 私にとって、温泉地や宿という場所から、時代を描くことはライフワークです。なぜなら、温泉旅館は時代が顕著に反映される場所であり、日本人にとっての要だからです。

 さて、つらつらと本の宣伝をつづりましたが、宿泊業を営む読者の皆さんへのメッセージも本書には込めました。

 ガイドブックなどのマスメディアや旅行会社のパンフレットの影響でしょうか、宿をカタログのように並べて見せることが主流となり、習慣化されています。それはWebでの宿案内もしかりで、私は宿独自の個性を引き出そうとしないメディアの姿勢に、常日頃から疑問を覚えています。

 温泉旅館を泊まり歩き、かれこれ25年以上がたちますが、宿に入った瞬間の印象で、どんな方が営まれているか、想像がつくようになりました。それは、「宿は人なり」だからです。

 100の宿があれば、そのまま100通りの宿であり、どれ一つ取っても同じ宿はありません。宿の皆さんは、もっとご自身の宿の個性を言葉で表現し、強く打ち出しましょう。何より、先人たちが織りなしてきたお客さまとの交流を埋もれさせないでください。お客さまとの交流自体が他の宿との差別化となりますし、家業として継承してきた宿ならではの輝かしい魅力です。

 こんなことを申し上げるのには理由があります。『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』の取材の際に、幾度となく「経営権が譲渡されて、話せる人がいません」「よく知る父が亡くなったいま、わかる人がいません」と、言われてしまい、泣く泣く諦めるケースが多発しました。家業である宿の皆さんは血脈をもって継いできたはずなのに、宿の歴史を置き去りにしているなんて、もったいない! どうかご自身の宿の時の積み重ねを大切に残してください。

 本書は、読者の皆さんにも取材で多大なるご協力を頂きました。厚く御礼を申し上げます。ぜひお手に取ってみてください。

(温泉エッセイスト)

 
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