【ちょっとよろしいですか 137】2024年度版『5つ星の宿』が書店に並びました 山崎まゆみ


 6月末に、2024年度版『5つ星の宿』が完成しました。本年度版から一般書店にも並びましたので、掲載されている宿が多くの方の目に留まるきっかけになります。

 せんえつではありますが、私も「温泉文化」をユネスコの無形文化遺産に登録しようと呼び掛ける巻頭企画で、群馬県草津温泉「一井」の市川薫女将と対談させていただきました。私はこれまで世界33カ国の温泉を巡り、日本の温泉文化が世界一であることを自負し、日本と海外の温泉文化の違いを語り、話してきました。2002年ごろからは、世界に日本の温泉文化を発信してきました。ですから、日本の温泉文化が世界に認められるのは私の悲願です。

 市川薫女将との対談で、心に残っていることがあります。「今の若い方は、おせっかいを好まなくなっているのかな」「ホテル的なおもてなしも考えていかなければいけないのかもしれません」といったお言葉です。

 対談記事ではしっかりと私の考えを申し上げていますが、大変大切なことなので、ここでも記します。

 実は、旧知の女将も、「私たちの昭和のやり方は、古臭いから」と、やや自虐的なニュアンスで話をされます。本当にそうでしょうか―。私はその意識には、大きな疑問を抱いています。

 今、東京をはじめとする大都市で、外資系の高額なシティホテルが林立しています。そのようなところと温泉旅館をそもそも比較する必要があるのでしょうか。

 日本の温泉旅館は唯一無二、独自の宿泊施設です。

 例えば、システマチックなホスピタリティと、女将をはじめとする人の気働きのおもてなしは、私は似て非なるものだと感じています。

 そして、シティホテルと温泉旅館におけるサービスの最大の違いは、私は「間合い」だと思っています。

 市川薫女将が、こんなエピソードを話してくれました。「室内の冷房が効きすぎて、寒そうに肩をすくめる外国人観光客に、うちの若い男の子のスタッフがひざ掛けを持っていったんです。私ね、彼をすごく褒めたんですよ」と。これです。システム化されたサービスでは、こうした配慮はできません。

 私の世界33カ国の温泉取材の経験から言えば、海外で仕事をするということは、アクシデント、ハプニングのオンパレードです。それら意表をついた出来事を面白がる気持ちがないと、海外取材などはできません。

 そしてそんなアクシデント、ハプニングが起こった時に助けてもらった現地の人たちのことが、どれほど記憶に残るか。困った時に親切にされたら、その国が優しい印象に変わります。そうした手助けができるのは、旅人の心に寄り添うことが上手な、日本らしいおもてなしをしてきた宿の女将やスタッフではありませんか。

 日本の温泉旅館の最大の美点は女将やスタッフさんの、気配り、心配りです。それを今一度、認識していただき、ご自身がされてきた仕事に誇りと自信を持ってほしいと、切に願います。

 (温泉エッセイスト)

 
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