【ちょっとよろしいですか 148】日本の宿の未来(2) 先進的な旅館と先進地域 山崎まゆみ


 新年あけましておめでとうございます。本年も皆さんのお役に立てるような連載にしたく、しっかりと取り組んでまいります。

 さて、前回の連載で記した九州運輸局主催のシンポジウム「KYUSHU ISLANDS SUMMIT 旅館・ホテル・温泉文化が支える未来」終了後、大分県由布院温泉に移動し「由布院 玉の湯」の溝口薫平さんにお会いできました。91歳になられた薫平さんは、「お客さんから学んできました」とおっしゃられ、古き良き家業で受け継ぐ宿の心得をお話しくださいました。

 「由布院 玉の湯」の新たな宿として、2024年1月にオープンした「STAY玉の湯」も体験しました。そもそも由布院は、昭和40年代に薫平さんをはじめとする当時の地元の若手旅館経営者がヨーロッパの温泉保養地を視察し、学んだことに始まりますが、そのころからの夢だったという滞在型の宿が、「STAY玉の湯」なのです。

 「STAY玉の湯」には、医療・福祉の資格を持つスタッフもおり、宿のすぐお隣は「ゆずの木クリニック」で、医師が近くにいてくれるという新しいスタイルの宿です。超高齢化社会に向けて、誰にでも優しい宿づくりという点でも非常に興味深い。

 純粋に宿として見ても実に魅力的。由布岳が望める絶景の浴場や部屋は、ソフト面で医療や福祉のサービスを兼ね備えながらも、決して病院のにおいは漂いません。

 ちなみに、基本は素泊まりで1泊1万8千円から。軽い朝食が付き、町内のパン屋さんのもちもちのパンに、辰巳芳子さんのレシピによるスープと果物が出されます。

 私には高齢の母親がいますから、もし母が病気になったら、この宿を選ぶでしょう。医療と福祉が共存する宿であり、そして温泉保養地なのです。こうした由布院温泉のブレない終始一貫した実践力に、心からの敬意を表します。

 由布院と同様に敬意を抱くのは、新潟県と群馬県をまたぐ地域で活動されている「雪国観光圏」の皆さんです。

 先日、銀座にある新潟県アンテナショップ「The NIIGATA」で【TELMONT×エコロッジJAPAN IN 雪国~100年先のテロワールのために~】の発表会が開催されました。

 シャンパーニュ業界で最もサステナブルに取り組むテルモンと、雪国を守る「エコロッジJAPAN IN 雪国」が、次世代のため、いや100年先のために、国を越えた連携についての発表でした。「雪国観光圏」の雪で冷やしたテルモン(シャンパン)もいただきました。

 エコロッジとは「雪と水を守る」「雪国らしい食や地域産業を維持する」観点から39項目を設定し、各宿が該当することを可視化するというものです。詳しい内容は冊子にまとまっています。

 発表会では、井口智裕代表の「日本の旅館を世界に広げるためにも、既に世界にある”エコロッジ”という物差しを使って伝えていきたい」という言葉が心に残りました。

 加盟宿を列記しますと、群馬県みなかみ町からは「別邸仙寿庵」「旅館たにがわ」、法師温泉「長寿館」など。新潟県からは松之山温泉「ひなの宿ちとせ」、越後湯沢温泉「HATAGO井仙」や「雪国の宿 高半」、貝掛温泉「貝掛温泉旅館」など、日本を代表する宿が名前を連ねています。

 前回の連載では、「旅館」の見える化のために積極的な議論の必要性を訴えましたが、こうした世界基準にのっとって表明するのも一つの手です。

 これまで地域の事業計画書などから地域の皆さんが頑張っていらっしゃる様子を拝察していましたが、ブレずに同じテーマで20年以上向かってきた熱い地域を目の当たりにし、5年後、10年後がさらに楽しみになっています。頑張れ! 日本各地の皆さん! 日本の宿の皆さん!

(温泉エッセイスト)


(観光経済新聞2025年1月1日号掲載コラム)

 
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