
先日、とある温泉地で、観光協会長を務める温泉旅館のオーナーと雑談をしていると、「うちは熟年の夫婦に利用してもらう温泉地ですが、観光戦略の集客のターゲットは20~40代の女性です。ですが、プロモーションは設定したターゲットに合致しているとは必ずしも思えず、ちぐはぐさに疑問を持っています」と聞かされました。
その悩みに、私も強く同意しました。実際のメインの客層と集客の目標とする客層のズレには注意しなければならないのです。
確かに観光地や温泉地の将来性を考えれば、ターゲットを若い客層にするのは当然でしょう。
また旅の計画をする際に女性が主導権を握るのはごく一般的なことですし、読者の皆さんが「若い世代の女性に来てほしい」というお考えも十分に理解できます。
ただ、女性をターゲットにする場合、女性の消費のリアルをどこまで把握されているでしょうか。女子大で教えている経験と私自身の感覚をお伝えします。
まず女性の消費行動について最初に挙げたいのが「推し活」です。自分が応援するアイドル、キャラクターには集中的にお金をかける。対象は男性であることが多い。
「推し活」市場の拡大はニュースにもなっており、一般的になってきました。
それならば観光地や温泉地、宿で推してもらう「人」や「キャラクター」が必要です。各地の温泉地で盛り上がっている「温泉むすめ」が一例です。ただし、どちらかと言えば男性向きでしょう。
女性が推したくなる「温泉むすめ」的な存在が欲しいところです。これはフィクションのキャラクターに限らず、実在する若旦那や男性スタッフでもいいのです。いや、むしろその方が訴求力があるかもしれません。
かつて山形県で、「若旦那図鑑」の冊子を製作し、漫画にまでしたのは面白い試みでした。ただ難しいのは「推し活」市場にまで届けるプロモーションの方法です。これはまだ正解が分かりません。
ともあれ大切なのは、女性に応援してもらいたい男性像を明確に示すこと。あくまでも女性は推す「人」に対して消費することをお間違えなく。
次に女性は「自分」に消費します。拙著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)でターゲットにしている読者層が「自分消費型」です。
「今やバレンタインのチョコは、女性が自分のために購入するもの」という話題も同様ですね。
この層を獲得するのなら、ひとり温泉の受け入れ整備が必須です。通年、ひとり客を受け入れられる体制にし、気に入ったものならば高価格でも支払うといった、いわば贅(ぜい)を知っている女性が求めるサービスをどこまで提供できるがどうかがカギになります。
つまり、あいまいなイメージの「女性」をターゲットにするのではなく、女性の消費行動や金銭感覚をもっとリサーチした方が、集客の実効性が増すのでは、と思うのです。
(温泉エッセイスト)
(観光経済新聞2025年3月3日号掲載コラム)