12月9日にVISIT JAPAN大使の会合がありました。11名の大使の皆さまと現役の国交省の皆さまOBの皆さま10名がご参加されました。
コロナ禍においては、こうしたリアルに会う機会を持てずにおりましたが、ようやく再開しました。この会で最も印象的だった、成田空港インフォメーションセンターに勤務される辻村由佳大使の話を共有します。
「10月に新型コロナウイルスの水際対策が緩和され、外国からたくさんのお客さまがやってきて下さいましたが、皆さん必ず『待っていたよ。日本に来たかったよ』とおっしゃって下さいます」。
そういえば、最近は温泉の大浴場で外国からのお客さんと一緒になりますし、公共交通を利用した移動中や街中でも、日常的に外国語が聞こえてくるようになりました。インバウンドが戻ってきたことが肌で感じられてうれしいです。
さて本原稿は、2022年最後の連載執筆になりますので、今年の取材を振り返りつつ、私が思う来年から未来へとつながる課題を記します。
新型コロナウイルスが発生してから、温泉旅館・ホテルの現状を取材してきましたが、「コロナで困らなかった」という宿泊業オーナーに何人か出会いました。そうした方々の共通項は「時流に乗ろうとしない。新しい施設に頼りすぎない」ということでした。
ここ1カ月ほどでお会いした2人の旅館オーナーのお話は奇しくも共に、「『俺の世界を見てくれ』という気持ちで宿を作っている」という趣旨でした。「俺が作った世界が嫌なら、来なくていい」という強気なお考えです。
さらに、そのお2人は、「コロナ禍では、うちを本当に好きなお客さんのみが来て下さり、クレームを付けるお客さんがいなくなった」とまでおっしゃっていました。
そうしたオーナーの宿に滞在すると、独自の世界観にひたる不思議な居心地。もちろんくつろげることには変わりないのですが、これまで見たことのない空間なので、記憶に鮮明に刻まれ、癖になる。
それに加え、お客さんも趣味が近く、いわば同類ですから雰囲気が統一されて、なじみやすい心地良さを感じました。
お2人に共通しているのは「俺の世界」と言いながらも、自分の趣味の世界を作っているわけではなく、土地特有の歴史を自分なりに解釈し、それを自らの宿で具現化していることです。だから、その地域で浮かず、地域の空気にすっと溶け込める。サウナやグランピング、ワーケーションとは別次元。話題になっていることを追いかける発想が一切ないから、他が追随できない、唯一無二の宿となるのです。
私は2020年から国のさまざまな補助事業に関わらせていただいていますが、地域の特色を生かしていない事業計画が多いことに驚かされます。そのような計画は地域名を変えたら、どこでも通用してしまうパターンでしかありません。話題になれば、それをまねる発想では、オリジナルには負けてしまいます。
「地域の磨き上げ」という言葉が、ここ数年よく使われてきましたが、実に奥の深い言葉です。きちんと地域を取材し、取材で得た情報を精査することはとても難しい。
情報発信も同様です。どの地域も似たような言葉で、同じような内容を発信しているから、区別が付きにくく、利用者に選んでもらうことが難しいのです。選んでもらう地域になるためには、他にはない地域づくりと発信が必要。
そうやって、まねたくなるような地域を目指しましょう。その試みを積み重ねていければ、観光立国は実現します、きっと!
(温泉エッセイスト)