ワクチン接種が急ピッチで進んでいます。ワクチンによる免疫で、コロナの新規感染者が減っていけば、今年の秋から冬にかけて一定の観光需要が戻りそうです。空前の観光ブームが到来してもおかしくありません。
そうなると、お客さんは旅行先で何を求めるだろうと考えてみました。
これまで我慢に我慢を重ねてきたわけですから、やっぱり一番には開放感でしょう。人里離れた秘湯や広々とした露天風呂へのニーズが増していきそうです。
私が個人的に、旅館に何を求めるかというと、コロナに負けない体作りのための食事です。これまでは「地元の食材」や「おいしさ」が大切でしたが、コロナを経験したいまは、「おいしいだけでなく、コロナに負けない食事」に変わってきました。
そこで、これまで温泉地や旅館で頂いた免疫力を上げるご飯を思い出してみました。
昨年、神奈川県湯河原温泉「おんやど恵」に宿泊した時は“コロナ禍に抗した料理”として、栄養価が高い「フォアグラ大根」と、漢方に用いられる陳皮がたっぷり練りこまれたうどんを頂きました。朝食では小田原かまぼこや湯河原みかんジャム、丹那牛乳や柿田川納豆から選べましたが、迷わず、免疫力を上げる納豆を選びました。
納豆といえば、秋田県夏瀬温泉都わすれの朝食で、角館名物のわらで包まれた納豆ととんぶりが用意されたことも記憶に鮮明です。粘り気ある納豆と小粒のとんぶりの食感のハーモニーも楽しめました。
もう一つ忘れられない納豆は、大豆を湯治させてできた「ラジウム納豆」です。納豆メーカーの社長が新潟県栃尾又温泉自在館に湯治に来たことがきっかけで誕生したそうです。春なら18時間、冬なら20時間、新潟県内産の大豆を温泉に漬けて軟らかくし、発酵させた納豆です。ねばねば感が強く、味はまろやかなのは、栃尾又温泉効果だそうです。
抗酸化作用の食材にも注目したいものです。
先日、静岡県湯ヶ島温泉「白壁」で頂いたわさび料理も秀逸でした。わさびといえば鼻につんとくるイメージがありますが、日本一の生産量を誇り、最高品種と評価が高い天城の「真妻(まづま)」は辛いだけでなく、まろやかな風味があります。後味に、少し甘さを感じるのです。ご飯の上に、すりおろしたわさびをのせ、しょうゆ一滴を垂らして頂くと、真妻の風味がよく分かります。
また名物「わさび鍋」は鶏をだしに、たくさんの根菜を入れて煮込みます。火を止めてから、仕上げにわさびを加えると、辛みを感じることはなく、爽やかさが口に広がるのには驚きでした。旅館スタッフからは、「地酒にすりおろしたわさびも合います」と薦められました。
鍋といって思いつくのは、秋田県乳頭温泉郷鶴の湯・名物「山芋の鍋」。ころんとした丸い芋(山芋)をすりおろし、丸めて鍋に入れ、あとはゴボウや大根、ニンジンなどの根菜がたっぷり。自家製のみそのコクがうま味を引き出します。
福島県穴原温泉吉川屋で食した「福島牛りんご焼き」も挙げなければ。「リンゴや桃の果汁をしぼって、だしに加えました。リンゴの酵素でお肉が柔らかくなりますよ。福島牛をしゃぶしゃぶしてくださいね」と、女将の畠ひで子さんに解説していただいた通りに、爽やかな酸味が広がり、肉をかみしめると柔らかく果物の甘味がふんわりと香りました。
コロナ禍によって、私たちは食事の大切さを思い知りました。アフターコロナにおいても、健康志向により拍車が掛かるのではないでしょうか。
(温泉エッセイスト)