あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。
2021年は緊急事態宣言の日々が続きましたが、それでも私はよく旅をしました。1年の旅を振り返った時に思い浮かぶのは、現地で汗を流し、熱く語る人の表情です。
先日、1次産業が主な収入源で、これから観光に力を入れるためにDMOを作ってまだ数年という地域の方から、「地域連携といっても、コミュニケーションの取り方は難しい。他の地域はどうしているのだろう」と質問を受けました。そこで、さまざまな地域の成功例と失敗例をリサーチしました。
本紙読者は練達された現場の皆さんですので、私から申し上げるのは大変せんえつですが、思うことをつづります。
地域連携の要は「人」です。
うまくいかなかった事例には共通点があります。コミュニケーションが取りにくいほど人間関係が悪化している地域。こうした地域は、得てして人気観光地。そもそも地域連携の努力などせずとも集客できる地域です。
また、行政がリーダーシップを取ると頓挫してしまうことがままあります。どんなに情熱を持たれた行政の方でも、組織に属している以上、異動は避けられません。私も熱意ある行政マンと企画立案したものの、その方の異動により実現できなかった苦い経験があります。だからといって行政の力がなければ地域連携は成り立ちません。ぜひ、行政の皆さんには強力なバックアップをお願いします。
では成功に至るパターンですが、強いリーダーシップを発揮される民間の方がいて、さらにリーダーと伴走する名参謀の事務方がいること。その2人が腰を据えて、根気強く地域を率いる場合は、見事に成功しているように見受けます。
例えば佐賀県の嬉野温泉は、全旅連の会長も務められ、カリスマ性がある小原健史さんがリーダーとなり、小原さんの理念を具現化する事務方がいました。旅館ホテル等の事業者さんとの調整や行政との折衝事を担当したプレイヤーです。この2人のコンビネーションと、その考えに共感した地元の皆さんとの歩みで、嬉野温泉はユニバーサルツーリズムの先進事例となりました。
もう一つの成功事例は「雪国観光圏」です。
雪国観光圏の代表であり、新潟県越後湯沢温泉の株式会社いせん代表取締役・井口智裕氏さんとは長いお付き合いですが、改めて地域連携の心得を教えていただきました。
雪国観光圏のスタートは、2004年の新潟県中越地震による風評被害から復活するために、ネスパス新潟で開催された「若旦那シリーズ」事業だったそうです。逆境から立ち直るために、地域の人と手を携えて企画を共にした経験が、現在の人とのつながりの基礎を作ったといいます。
井口さんが講演でよくお話しされる「地域づくりに関わる人に必要な四つの資質」を挙げてみます。
一つ目は「自分の商売をきちんとできる人」。目の前の課題を超えられない人は、他人の仕事にまで関わるべきではないでしょう。
二つ目は「視野が広い人」。世界を知っていて、長い時間軸で現状を俯瞰できる人。
三つ目は「人の縁をつなげられる人」。自己欲求だけではだめで、利他の精神を持つ人。
四つ目は「打たれ強い人」。批判や反対されても、続けられる精神力を持つ人。
「この四つの資質を持った人間同士が最低3人集まって合宿すれば、何か生まれます」と井口さんはおっしゃいます。
また、「市町村でもない、県でもない雪国観光圏。だからこそみんなが熱くなれるのです。圧倒的なカリスマが作り上げた地域連携ではなく、『雪国』という理想をみんなで夢見て動いた結果だと思います。自分たちが愛している『雪国』が、雪のせいで現代社会の中で疎んじられている。そのことに葛藤を感じた人たちが、私も含めてみんな雪国観光圏という信仰にハマったのです」。冷静に分析し、言語化できているリーダーの井口さんの能力に感服です。そんな井口さんは、2021年度観光庁長官表彰を受けました。
(温泉エッセイスト)