振り返ることって、とても大切ですね。とりわけ、これまでやってきたことを言語化して、可視化するのは大きな意味を持ちます。次のステップが見えてきますし、関係者と思いを共にできるからです。
そんなごく当たり前のことを気づかせてくれたのは、東京大学公共政策大学院交通・観光政策研究ユニット(TTPU)セミナー事務局から「観光有識者100名アンケート」のご依頼でした。
3月11日に開催される第4回TTPUセミナー「観光の基本に立ち返る~2000年代の観光の総括とこれからの持続可能な観光の在り方~」のためのアンケートで、「観光立国懇談会報告書(2003年4月24日)の『住んでよし訪れてよしの国づくり』の観点から20年を振り返り、これからの観光のあり方を考えたい」という趣旨のものでした。
セミナーはまず三重野真代特任准教授が「観光有識者100名アンケート」の結果報告をします。その後のパネルディスカッションでUNWTO駐日事務所の本保芳明代表、由布院玉の湯の桑野和泉社長、フランス観光開発機構の在日代表、新潟県津南町の町長。コーディネーターは東京女子大学の矢ケ崎紀子教授です。白熱したディスカッションになるのは間違いありません。
さて、アンケ―トに話題を戻します。質問項目を簡単に列記すると、「観光は日本の成長戦略の柱として経済を牽引(けんいん)する存在になったか」「団体旅行から個人旅行への移行、OTAによる予約スタイルの浸透、インバウンドの拡大など変化に対応してきたか」「地域を活性化できたか」「国際社会での地位の向上に貢献できたか」「外国人旅行者の姿を通し日本人が文化や地域の価値を誇りに思うようになったか」「産官学の役割分担はそれぞれの役割を果たしたか」等、計15問。
これに答えるために、私自身もこれまでの20年を俯瞰(ふかん)したわけです。全てに回答できるほどの経験値はありませんでしたが、言葉にしたことで見えてきたものもありました。
確かに観光産業にとって、この20年間は大きな変化の連続でした。その変革に対応できた人たちが経済効果を生んだわけですから、素晴らしい成長期でした。
ただ一方で、そのことを、国民の皆さんはどれほど理解してくれているでしょうか。
昨今の「Go Toトラベル事業」への批判は、観光産業が日本の基幹産業となったことがあまり認識されていない現れだったように、私は捉えています。
例えば、観光が地域経済を支え、発展させることを平易に示し、観光業界ではすっかり浸透している「住んでよし訪れてよし」というスローガンも、私が仕事をしているマスメディア関係者(観光業界にあまり関わりのないメディア)に聞いてみると、残念ながら知っている人はほとんどいませんでした。
観光は地域産業の活性化であり、地域文化を守ることであり、その多面性、発展性からわが国の基幹産業にふさわしいことをもっとアピールしなければいけない。そんな思いでアンケートに答えてみました。
観光によって、地域が稼ぐことができれば、今後は地域が「稼ぐ観光」を意識するようになる。そうやって観光業界が拡充していく好循環こそが目指すべき形ではないでしょうか。
(温泉エッセイスト)