【にっぽん銘菓の旅1】「善光寺のお膝元・長野市」 中尾隆之


甘酸っぱさがほのか「玉だれ杏」

 6月~7月、梅が実る頃降る雨を梅雨と呼ぶが、梅の仲間である杏が橙黄色に熟するのもこの時期。その杏の生産量日本一は60%を産する青森で、2位は約38%の長野。ほとんどをこの2県で占めている。

 青森県での主産地は南部町や五戸町、長野県では松代(現長野市)や千曲市。特に旧更埴市森のあんずの里は4月上~中旬、“一目十万本”の淡紅色の花の海の中、「あんずまつり」でにぎわう。6月中~7月上旬の収穫期には「あんず狩り体験」もできる。

 杏は甘酸っぱいので生食よりもジャム、干し杏、シロップ漬け、ようかんなど加工されることが多い。

 代表する銘菓に善光寺表参道沿いで創業135年の長野凮月堂の『玉だれ杏』がある。

 杏と寒天で作った杏ようかんを透けるほど薄くて軟らかな求肥で巻いたもので、見た目も香りも甘さも上品。かみしめるとほのかな甘酸っぱさに涼味があふれる。

 「100年以上前から材料も作り方もほとんど変えていません」と社長の宮島章郎さんがいうロングセラーの看板菓子である。

 杏菓子としては、他に煮詰めた杏を寄せて砂糖がけした「杏の実」やスポンジ生地で杏ジャムを挟んだ「しなの杏」も善光寺参りの手みやげとして人気がある。

 店の栞には「杏は善光寺の鐘が聞こえわたる地域内のみに実る」の言い伝えが書かれている。

 その善光寺といえばご存じ、約1400年前に開基の一宗一派に偏らない庶民信仰の古刹(こさつ)。巨大な木造建築の国宝・本堂には秘仏の阿弥陀如来像を安置。7年に1度の御開帳では身代わりの前立本尊を拝むだけで、ご本尊を直に拝観した者はないという。

 ないといえば杏は元々信州になく、元禄時代、伊予・宇和島藩主伊達宗利の娘豊姫が15歳で松代藩主真田幸道に輿入(こしい)れの際に慰みに持参した苗木に始まる。

 あんずの里には「あんずジャムソフト」や「杏生ロール」など杏スイーツがいろいろあるが、日本一の青森県では菓子より「しそ巻あんず漬」「あんず梅漬」など総菜系が多い。

 杏の果肉にはβカロテン、ビタミンAが豊富で、乾燥させた種の杏仁は中国料理や漢方薬に欠かせない。甘酸っぱく、おいしく健康によく涼味のある杏。菓子や惣菜を求めて旅するにはいい季節である。

(紀行作家)

 
 メモ●「玉だれ杏」=長野凮月堂(TEL026・232・2068)1箱6本入り税込み1101円。

 
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