【にっぽん銘菓の旅2】「湧水あふれる水都・大垣」 中尾隆之


つるりとした食感の夏の涼菓「水まんじゅう」

ひやり、つるりの「水まんじゅう」

 猛暑の日本の夏は滝や湧水、渓流など水に心誘われる季節。とりわけ夏に思い募るのは街角で手軽に飲んだり、くんだりできる湧水の町である。

 秋田県美郷(みさと)町(旧六郷町)、岐阜県郡上(ぐじょう)市八幡町、愛媛県西条市、長崎県島原市などが知られているが、岐阜県南西部の大垣市もまた八幡神社境内の“大垣の湧水”など市内に26カ所の湧水井戸を数える全国屈指の水の町。“わくわく湧き水マップ”のサイトもある。

 街を走るのはスイトタクシー、文化会館の名称はスイトピアセンター。社名や店名に「水都(すいと)」「スイト」もある。毎年8月上旬の催事も水都まつりである。

 豊富な水を生かした大垣ならではの銘菓に「水まんじゅう」がある。店頭で陶製のお猪口(ちょこ)に詰めた饅頭(まんじゅう)が湧水で冷やされる光景は大垣の夏の風物詩。食べられる店が20軒もある。

 なかでも人気なのは、大垣駅前に城郭風の店を構える創業226年になる金蝶園総本家の「水まんじゅう」。本葛にわらび粉を混ぜた生地でこし餡(あん)を包んで水で冷やしたオリジナル饅頭で、スプーンで口に運ぶと、ひやり、つるり、舌から喉へ。あっさりした甘味の餡と涼味にもう一つ二つと手が出る。4月~9月下旬の期間限定で日保ちは2日。取り寄せはできない。

 同店の通年販売の看板菓子は2代目が創製した「金蝶園饅頭」。北海道産小豆と岐阜県産の氷砂糖を清らかな地下水で炊き上げた上品な甘みの餡の酒饅頭で、大垣藩に献上すると、家老の小原鉄心に気に入られた。

 ご存じのように大垣は関ヶ原合戦前夜までは西軍・石田三成の本拠地。江戸時代は戸田氏10万石の城下町として栄えた。再建だが堂々たる4層の天守閣や石垣が往時をしのばせる。

 この店では大納言小豆のつぶ餡と栗をもちもちした小麦粉生地で編笠風に包んだ「芭蕉餅」も人気商品。

 元禄2年(1689年)、江戸・深川を出発して約2400キロの旅を大垣で終えた松尾芭蕉に敬意を表して作った焼き菓子である。

 市内船町の「奥の細道むすびの地記念館」の展示には、大垣で旅を終えた芭蕉は10月18日、門人たちに見送られ遷宮の伊勢参拝のため舟で水門川を桑名まで下ったとある。

 離れがたい蛤(はまぐり)の蓋(ふた)(殻)と身に伊勢の二見ヶ浦を掛け、桑名名物も込めて「蛤のふたみに別れ行く秋ぞ」と詠んでいる。

 (紀行作家)


つるりとした食感の夏の涼菓「水まんじゅう」

 メモ●「水まんじゅう」=金蝶園総本家(TEL0584・75・3300)4個入り税込み550円(地方発送不可)。


八幡神社境内の大垣の湧水

 
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