【にっぽん銘菓の旅6】塩と義士の町・赤穂、甘さまろやかさ「塩味饅頭」 中尾隆之


塩味きいて甘ささわやか

 12月になるとふと思い浮かぶ町がある。歌舞伎や文楽、TVドラマなど『忠臣蔵』でおなじみの播州赤穂である。

 駅に降り立つと筆頭家老・大石内蔵助の像に迎えられ、お城通りを15分も歩くと、堀と石垣を巡らした赤穂城跡に着く。

 城は常陸・笠間から転封の浅野直長が1645年に築城に着手。塩田開発に力を入れ、赤穂塩を全国一にに広めた。

 この塩を餡(あん)にきかせた菓子が作られたのは江戸時代後期の1853年。元祖播磨屋の当主が赤穂の海に半円状に沈む夕日に感銘を受け、形を似せた「汐見まん志う」を創製する。

 これを城主に献上すると大変気に入られ、御用菓子司に取り立てられる。苗字帯刀を許され、「塩味饅頭(まんじゅう)」と名付けられ、のちの商標登録が今に続いている。

 寒梅粉と砂糖を混ぜた落雁風の薄い皮にきっちり包まれた北海道産小豆の漉(こ)し餡は、ほっこり、しっとりのほどよいバランス。塩がきいて絶妙な塩梅の甘さである。抹茶入りはかすかな苦みのあとに舌に広がる甘みが一段とさわやか。

 市内には一番人気の元祖播磨屋の「塩味饅頭」をはじめ、総本舗かん川の「しほみ饅頭」、巴屋の「塩味」、かん川本舗の「志ほ万」など7~8種がある。原材料は同じだが、菓名や味はそれぞれ微妙に異なり、飽きないおいしさ。

 町のシンボルの赤穂城はもともと天守を築かず、本丸内に藩邸、二の丸、三の丸に家老屋敷を置いた。復元の大手門や2層の隅櫓(すみやぐら)、大石良雄旧宅長屋門、四十七士を祭る大石神社などが歴史を語り継ぐ。

 駅近くには浅野家の菩提(ぼだい)寺の花岳寺や、江戸城での刃傷(にんじょう)事件の知らせに急ぎ戻った家臣がひと息ついたという息継ぎ井戸がある。

 江戸城での刃傷沙汰の原因に諸説があるが、接待役を任じられた浅野家が指南役の吉良上野介に面子を潰されたからという。吉良の領地の三河も塩の産地で、その争いが背景にあったともいわれる。

 主君を失い、お家断絶の赤穂浪士が吉良邸に討入りしたのは12月14日。赤穂ではパレード、義士行列、物産市など今年で121回目の「赤穂義士祭」が盛大に催される。     

 (紀行作家)

塩味きいて甘ささわやか


復元された赤穂城大手門

 【メモ】「塩味饅頭」=元祖播磨屋(TEL0791・45・3040)。1箱10個入り(白6・抹茶4)税込み993円(取り寄せ可)。


(観光経済新聞12月9日号掲載コラム)

 
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