水羊羹(ようかん)は缶やプラスチック容器入りの夏の涼菓として人気がある。お中元の定番商品にもなっている。
だがこれは各家庭に冷蔵庫が普及した40~50年前からの話で、練り羊羹に比べ水分が多く糖分が少ないので日持ちの短い冬の食べ物である。
その中でかつて羽二重織王国の福井県は11月1日~3月末、製造販売が100店を数える“水羊羹王国”。暖かいコタツに入って食べるのが風習になっている。
水羊羹はおおむね煮溶かした寒天に小豆餡(あん)を混ぜて固めたものだが、柔らかさ、色、甘さなど店によって微妙に異なる。名称も「水羊羹」「水羊かん」「みずようかん」などさまざま。
共通するのは水分が多く、寒天や砂糖がやや少なめなこと。柔らかく、ひやり、つるり。甘過ぎないのでつい二つ三つと手が出るほどである。
25店ほどある県都の福井市で人気なのは1937年創業の有限会社えがわの「水羊かん」。容器に羊羹を流し込み固めた“一枚流し”で、救いやすく切れ目を入れ、木べらを添付してある。
滑らかな舌触りとともにしっとり、ひやり。黒砂糖のさっぱりとした甘さが舌に広がる。甘さ抑えめながらおいしさを感じるのは砂糖、餡、寒天、水分のバランスが絶妙だから。密封容器なので賞味期限が10日、全国発送もしている。
福井で冬に水羊羹を食べるようになった訳には諸説があるが、一つは京都や近江に丁稚(でっち)奉公に出た子らが年末に帰省の時土産に持ち帰ったのが始まりとの説。
また奉公先が丁稚に手土産として持たせた小豆や砂糖で作ったのが起源とも。福井では水羊羹を「でっち羊羹」とも呼ぶのがその証という。
福井県と同じく、水羊羹が冬の風物詩になっているのが栃木県日光市。今では1年中、製造販売の人気商品だが、日光ではおせち料理の口取りの一品として作られたのが始まり。
その風習が今も生きていて、地元では水羊羹の正式な発売日は11月1日となっている。当日は地元の住民など多の人が押し掛ける。
とくに大みそか前日の12月30日は、どの菓子店にも行列ができ、1日中、客が絶えない。 (紀行作家)
【メモ】「水羊かん」=(有)えがわ(TEL0776・22・4952)1箱税込み850円
福井城跡の堀と御廊下橋
(観光経済新聞1月6日号掲載コラム)