
店では木箱の容器で賞味
3月になると日本列島では桜前線が北上を始める。季節感を大事にする和菓子の店ではこの時期、各地で「桜餅」を売り出す。
厳密には3~4月のお菓子だが、今は通年製造販売の店が少なくない。その始まりは江戸時代中期、向島の「長命寺桜もち」といわれている。
隅田川河畔の天台宗長命寺の門番として勤めていた山本新八が、掃いては散る落葉に閉口して、思案の末、樽(たる)で塩漬けにしてみた。取り出すと何ともいい香りがしたので、餅を包んで売ったところ大評判。
当時、隅田川の堤は8代将軍吉宗が勧めた桜の名所の一つで、春は花見の遊覧で大いににぎわった。その一角に店を構えた山本やの「長命寺桜もち」は飛ぶように売れた。
小麦粉を水で解き、薄く手焼きした皮で北海道産小豆のきめ細かなこし餡(あん)を巻いたもので、香りのいい2~3枚の塩漬けの桜葉で包んである。
創業から桜餅一筋で300余年。無添加で、上品な甘さに人気が続いている。
日保が1日なので店内で食べるか、持ち帰りか。茶屋風の縁台では柾目の杉板の「木箱」でお茶とともに出してくれる。手土産には箱詰と篭詰がある。
芳しい香りを放つ桜の葉は全国生産の7割を占める伊豆の松崎産。主産地・松崎には通年販売の梅月園の「さくら葉餅」がある。
甘さほどよい餡を透けるほど薄い上新粉の生地でくるみ、桜葉2枚で包んである。軟らかいので葉と一緒に食べる人が多い。無添加ながら独自の工夫で日保は4日と長め。
対する関西の桜餅は、小麦粉でなく糯(もち)米を蒸し乾燥させた後、粗く挽(ひ)いた道明寺粉を使った生地でこし餡を包む。ピンク色と米のつぶつぶ感はまさしく餅である。小麦粉の関東風とは見るからに違う。
関西で代表するのが老舗・鶴屋吉信で修業の主人が開いた鶴屋寿の「嵐山さ久ら餅」。道明寺糒(ほしい)を用いた関西の桜餅だが、葉は松崎産である。
製造販売は3~4月が多いが、この店は通年販売。賞味期間は冬3~4日、夏2~3日。地方発送もしている。
(紀行作家)
【メモ】「長命寺桜餅」=長命寺桜もち(TEL03・3622・3266)箱詰5個入り税込み1500円。(取り寄せ不可)。梅月園(TEL0558・42・0010)、鶴屋寿(TEL075・862・0860)。
店では木箱の容器で賞味
桜餅発祥近くの隅田公園
(観光経済新聞2025年3月10日掲載コラム)