ウィズコロナ時代の観光と地方創生
新型コロナウイルスがわが国の観光を取り巻く状況を一変させた。観光客を受け入れる旅館・ホテルなど事業者は、この難局にどう立ち向かえばいいのか。温泉エッセイストの山崎まゆみ氏をコーディネーターに、各界の著名人に聞くシリーズ企画「アフターコロナ・ウィズコロナ時代の観光」。3回目はタレントの高木美保氏に登場いただいた。
旅は距離より心地良さが大事 地方が宝庫、もっと自信を持って
高木美保氏(タレント)
山崎 コロナ禍で全国の観光地が苦しむ中、「ピンチをチャンスに」と考える自治体もあります。作家の江上剛さんは、「このコロナ禍で異能の人、才能のある人がパソコン一つ持って東京を飛び出す。都会のオフィスではなく、地方に拠点を置き、仕事をするようになる。うまく取り込めば、地方は力をつけられるのではないか」とおっしゃっていました。
地方にお住まいで、地方の価値をよくご存じの高木さんに、これからの地方のあるべき姿について伺いたいと思ったのが、今回、対談をお願いしたきっかけです。
高木 「地方創生」と言われて随分たちますが、状況はあまり変わっていないように見えます。商店や飲食業など、地元だけで経済が回って、なんとなくうまくいっていたんです。
でも、コロナ禍の今は経済が回らなくなった。初めて切迫感というものを感じているのではないでしょうか。
地震や台風など、自然災害は、そのときは大変ですが、復興への階段を着実に上っていきます。でも、今の感染症は先が見えない。いつまでこの状態が続くのかと、皆さん不安を抱いています。「ピンチをチャンスに」とは、まだ言っていられない方が多いと思います。
私が住んでいる那須は、東日本大震災のとき、実際の揺れの被害と風評被害、この二つに徹底的にやられてしまいました。旅館・ホテルさん、飲食や観光関連のお店、農家の皆さん、本当に大変でした。
私の弟がホテルに勤めています。そこは震災の後、お客さんの数は減ったのですが、グループのお客さんが断続的に来てくれて、それが救いだったようです。
でも、今回は、グループも含めて人が動かない。震災のときよりも厳しいと言います。雇用を守るための助成金や無担保の融資で、なんとか乗り越えようとしているそうです。
山崎 今は少しずつフェーズが変わってきて、地域内でお客さんが動き始めています。
高木 そうですね。Go Toキャンペーンより前に、地方でキャンペーンをやっていて、Go Toがそこに乗ったようになっていますね。
山崎 Go Toはゴールデンウイークに稼げなかった宿泊や観光業に対して、せめて夏休み前には、と始めた政策です。
高木 Go Toが始まる直前は「コロナは寒くなればまた広まる。その時期に人は動かせないから、暑いうちに」と言われていましたよね。時期としては良かったはずなのに、思った以上に感染者が季節を超えて増えてしまった。経済界からも「なぜ今なんだ」という声が出ていますが、その時は予想がつかなかった。そこが感染症の難しいところです。
そう考えると、地方の人たちが、近くのお客さんを掘り起こそうと、いち早くキャンペーンを展開したのはすごいことです。
山崎 実績が出ていますし、地方の人たちも、やはり観光客が必要なのだと、認識を新たにしたのではないでしょうか。
ところで高木さんが地方創生のために、地方で何か提案していることはありますか。
高木 定期的に通って、お仕事をさせていただいている場所があります。そこは私のように東京で生まれ育って、田舎が好きで田舎に移り住んで、農がある暮らしとか、自然の中でお金を使わずに遊んだりとか、そういうものの価値が高いと思う人間からすると、まさに宝庫なんです。
でも、東京にあるような建物の、少し小さいようなものがあって、「どうして?」と地元の商工会の青年部の人たちに聞くと、彼らより上の世代の人から「田舎くさいことはするな」と言われるのだそうです。
山崎 田舎くさい?
高木 皆さんもそう思っているのかと聞くと、そうだと。「いい加減、その価値観はやめましょう」と思いましたね。
地元の人も、「地元で遊ぶのはつまらない」「旅は遠くに行くもの」と思っているのでは。でも、このコロナで、新しい旅の距離感ができたと思うんです。
距離ではなく、良いと思ったところが旅先になるんです。旅は心地良さで測るものだと、皆さんが感じてきていると思う。
山崎 近場の旅は高木さんがかねて提案してきたテーマですね。
高木 私を講演に呼んでいただいた地方の方、皆さんおっしゃるんです。「東京の人から見て、私たちの田舎って、どんな魅力がありますか」って。
山崎 私も聞かれます。
高木 で、「後でお答えします。ところで、皆さんにとって、この田舎にはどんな魅力がありますか」と逆に聞くと、「ええ…」と、考え込んでしまうんですね。
それではいけないと思うんですよ。自分が良いと思わないものを、他人に薦められますか。自分たちが自慢できるものだから、来てもらい、お土産を持ち帰ってほしいと思うのでしょう。
一つヒントを言えば、皆さんが、「そんなものいくらでもある」と思っている木や林や森や田んぼや畑や川。
山崎 無料のもの。
高木 その場にいるだけ。その土地のものを食べるだけ。その土地のおいしい水を飲むだけ。ただそれだけでものすごく価値があって、私を元気にしてくれるし、癒やしてくれる。
そう話したら、泣かれてしまいました。「そういうふうに言ってくれる人がいなかった」と。「こんな田舎によく来てくれた」と、自分たちを一段低くしてしまうんですね。「そんなことはありません。なんで今まで来なかったんだと、そのぐらいの価値があるんです」と、行く先々で言っているんです。
山崎 もっと自信を持っていいですよね。
時代は「選択」「自由」「引き算のサービス」を
高木美保氏(タレント)と山崎まゆみ氏(温泉エッセイスト)
山崎 高木さんが泊まってみたい旅館とか、旅館がこんなふうに変わればいいとか、思うことはありますか。
高木 料理を選択制にしてほしいです。メニューがないですよね。
山崎 お品書きはありますが、メニューはないですね。
高木 「本日のお料理」と手書きで書いてくださったり、素晴らしいと思うんですが、選ばせてほしかったな、という気持ちはあります。
山崎 以前、日本の旅館を海外に紹介したとき、ドイツの人から「選んでいないのに、高い金額で料理を出された」と、クレームを受けたことがありました。
高木 旅館の皆さんは、自分たちのサービスに自信を持っていいと思うんですよ。
でも、時代は「自由」「選択」になっています。「プリフィックス」でいいと思うんです。この料理が入るといくらとか、値段が変わる。プリフィックスのランチって、主婦に人気なんですよ。お財布に融通が利くのと、ダイエットに融通が利くのと。
山崎 (笑い)
高木 あとは適度に放っておいてほしいですね。「引き算のサービス」というのでしょうか。チェックインの後、荷物を運んでお部屋に案内してくださいますよね。その後、係の方が一度はけて、またいらしてお茶を入れてくれたり、夕食の時間を聞いてくださったりと。一度で済ませばいいと思いますし、お茶もプリフィックスでいいと思います。「自分たちがしたいサービス」ではなく、「お客さんが求めているサービス」をしてほしいですね。
山崎 今のコロナ禍ではどうですか。
高木 「お客さまに失礼ですから」と、マスクをしていない旅館の方がいらっしゃいました。一方、別の旅館では全員しっかりとフェイスガード。今、求めている衛生観念は当然後者です。
いかに危機管理ができているか。お客さんはよく見ていますよ。独りよがりではない、衛生管理を含めたサービスを心掛けていただきたいですね。
コーディネーター 山崎まゆみ氏(温泉エッセイスト)