王子稲荷神社の凧市(東京都北区)
上野から電車で3駅、北へ進むと、王子という駅に着く。プリンスを意味する王子様かと思えばそうではなく、地名の由来は王子権現に由来するそうだ。この王子権現は王子神社と名を変え、今でも王子駅近くに佇んでいる。そんな立派な神社のある王子だが、古くから風光明媚な場所として知られてきた街でもある。桜の名所、飛鳥山は徳川吉宗が行楽地として整備し、1873(明治6)年には日本で初めての公園として指定された場所だ。また、王子七滝という言葉が残るように水の豊かな地としても知られ、歌川広重の名所江戸百景にも描かれる江戸っ子憩いの場でもある。
王子には毎年2月の午(うま)の日に行われるお祭りがある。凧(たこ)市だ。凧市が行われるのは王子稲荷神社。駅から延びる商店街を北に進むと、崖の上に現れる真っ赤な社殿が目印となっている。こちらの創建は平安時代で鎮守府将軍だった源頼義(源頼朝の6代前の先祖)によって「関東稲荷総司」という称号が付けられるなど歴史ある神社だ。現在の社殿は徳川家斉が寄進したもので、その豪華さは目を見張る。
凧市は、稲荷神社特有の初午祭に合わせて行われている。その中でも王子稲荷神社の特徴は、なんといっても凧だ。奴さんやキツネが描かれた凧が境内の露店に並んでおり、大小さまざま、表情豊かに描かれていてユニークである。
なぜ凧なのかというと、火事除けの願いが込められているのがポイントだ。凧市が行われる2月は昔から火事が発生しやすい時期であり、火事とけんかは江戸の華という言葉もあるが、大火が多かったこの時期に「風を切る」凧を火防の縁起物として江戸の人たちが扱うようになったんだとか。そのため凧には、「火防凧」や「火防御守護」「火の用心」なんて言葉が書かれている。凧の力で、空気の乾くこの時期を乗り越えたいという願いがこもっているのだ。
凧を手に入れたら、王子名物の卵焼きも一緒に手に入れたい。駅の方へ戻って求めてみよう。
(お祭りトラベラー・髙橋佑馬)
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稲荷神社の使い、白狐が描かれる火伏凧