田縣神社 豊年祭(愛知県小牧市)
毎年3月15日に行われる田縣神社「豊年祭」。「五穀豊穣、子孫繁栄を祈願する」と聞くと一般的な祭事を連想するが、この豊年祭はある特徴から、他の祭りとは一線を画している。お神輿(みこし)が「男性のシンボル」そのものであるのだ。
令和3年は感染症対策のため、残念ながら関係者での神事のみとなってしまったが、本来は厄男たちが男性のシンボルをかたどった「大男茎形(おおおわせがた)」を乗せた神輿をお旅所から田縣神社まで担いで練り歩く、にぎやかな祭りだ。
祭り当日は地元住民だけでなく、世界各国からの観光客も押し寄せ、神輿を取り巻く姿は圧巻の一言に尽きる。大男茎形を模した菓子や土産物が並ぶ屋台に家族や友人と連れ立って行列を作る様子は、とてもほほ笑ましい光景に見える。
その珍しさからこの祭りは奇祭としても名高く、ややもすると好奇の目で見られることもあるが、「生命を生み出す存在」をあがめる「生殖器崇拝」は、世界中にさまざまな形で存在する。
国は違えど、主たる願い事は「五穀豊穣、万物育成、子孫繁栄を祈願する」など生命そのものに直結するものが多く、万国共通の価値観であることが興味深い。人間が自らの身体の一部を神聖なものとしてあがめ祭る行為は、むしろ誠実さや謙虚さを認識させてくれる。
また、隣市にある大縣神社摂社(姫の宮)では、田縣神社とは対照的に女陰形の供物を納めた神輿と大幟を渡御する祭礼があり、田縣神社の豊年祭を「陽の祭り」と呼ぶのに対し、姫の宮の豊年祭を「陰の祭り」と呼ぶことがある。どちらも民衆の心をつかんで離さない人気の祭りだ。
あくまで筆者の感想となるが、近年ジェンダーに関する報道が増えて久しく、生まれ持った性(せい)に関わらず人生を謳歌(おうか)できる社会が徐々に実現されていることをうれしく思う一方、人間が生物として持ち合わせる性の尊さ、力強さを失うことのないよう、豊年祭の永続を願ってやまない。
(お祭りライター・木谷崇)
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お目当ての神輿にカメラを向ける観衆