長年の課題に向き合う
コロナ禍によって国内、国際の旅行が制限される今の厳しい状況は、ワクチン接種の進捗(しんちょく)とも関連して、少なくとも年内あるいは年度内いっぱい続くと考えられる。インバウンドも含めてコロナ前の需要水準に戻るのは、早くて2024年までかかるとみている。
今回の危機は、コロナの感染拡大が大きな契機となっているが、観光業界が長年抱えてきた課題が改めて浮き彫りになった側面があり、その課題にしっかり向き合うチャンスでもある。例えば、コロナ禍の観光スタイルとしてグランピングやアウトドアのアクティビティが人気だが、これらは従来、海外に比べ、日本の観光が弱かった部分である。温泉と食事以外に魅力的な選択肢が増えるのは良いことだ。マイクロツーリズムも週末以外の日に宿泊を伴って定着させることができれば、旅行者、業界、地域にとって意味がある。
もう少し長い目で見れば、インバウンドや国内の長距離旅行も復活する。その時に、業界は単に元に戻るだけでは足りない。海外旅行が解禁されて50年、日本人の旅行スタイルは進化してきた。今後、途上国の人々の旅行スタイルはそれ以上のペースで進むことから、海外の動きをよく見ていくことが大切である。インバウンド旅行者のニーズも進化していく。国内客の穴埋め的に誘客してきた団体需要は確実に衰退し、質を求める個人旅行にシフトする。商品・サービスの価格帯はさまざまでも、国内客からも、インバウンド客からも、それぞれの価格に対して一定以上の品質、お値打ち感を求められる。
そして、2019年までの状況を考えると、観光地にはインバウンド客があふれていた。オーバーツーリズムの経験を生かして、旅行者の満足度を高め、住民の生活環境も確保するために、立地規制や景観規制、交通政策など、さまざまな手法を組み合わせたビジター・マネジメントにしっかり取り組むべきだろう。
ただ、今の状況はしばらく続く。当面を生き延びるサバイバル・プランが必要だ。体力勝負の部分があり、苦しいが我慢の時だ。そういう中でも旅行者の安全を守る環境を提供することが最優先となる。当社でも、顔認証技術を使った非接触型の搭乗手続きや、さまざまな感染防止策を講じており、航空会社の搭乗券とセットになったPCR検査料にも補助を実施している。
海外の事例を見てもワクチン接種が進み、人々の安心感が戻れば旅行需要は回復する。そのタイミングを逃さず旅行意欲を後押しするキャンペーンなどは今から準備を進める必要がある。海外旅行では、国際的に互換性のあるワクチン接種やPCR検査陰性のデジタル証明の枠組みなどを準備することが重要だ。
観光の成長性には疑いがない。旅行への欲求は人間の本質に根差したもので、コロナが収まれば、必ず観光は復活する。ただし、需要の中身はコロナ前からさらに進化していく可能性が高い。首都圏の航空需要を支えるインフラとして常に中長期的な方向感覚を失わず、前進を続けていきたい。