生産性の意味を正しく理解することこそが、経営力であると言っても過言ではありません。実際、「生産性」とはよく耳にする言葉ですが、その意味を正しく理解をしている人は少ないのではないでしょうか。一般に、「生産性」とは何かを尋ねたところ、多くの人たちから「企業が効率的に製造を行うこと」、あるいは、「業務を能率よく行うこと」との答えが返ってきます。
歴史をたどりますと、古代文明が発祥して以来、生産性向上のため分業が生まれ、道具を使い、仕事の仕方を工夫し、機械を造り出しました。代表的な例は、18世紀にイギリスで始まった産業革命です。それまでの手作業から機械を使用することで少ない人数で多くのものを産出できるようになり、人々の生活は飛躍的に豊かになりました。製造現場への機械の浸透は、「肉体労働者」の労働生産性を飛躍的に向上させました。
会計では、製品やサービスを提供するために投入した人、モノ、カネといった生産要素(資源)が産出する付加価値(利益を含む)の割合を「付加価値生産性」と言います。生産要素を人に限定した場合、その生産性が、「付加価値労働生産性」です。
同じ生産要素であれば、投入量を増やせば付加価値は増えます。例えば、従業員を増やし、1人当たりの労働時間を増やせば、並行して付加価値も増えることになります。また、機械設備への投資は、労働生産性の向上に貢献するものと考えられてきました。
しかし、実際はどうでしょう。特にサービス産業や組織の間接部門で働く事務員の生産性は、人を増やし就業時間数を増やしても、付加価値である利益は増加しません。それどころか減少することもあります。そこで、何を行うかといえば、超過勤務制限です。超過勤務を減じた結果、逆に利益が増加したということであれば、そもそも組織は必要のない作業のため時間とカネを無駄にしていたことになります。そこで、超過勤務の排除は生産性向上に貢献したと考えるわけです。ところが、本来、不必要だったものを止めたという考えだけでは、より高い生産性向上を期待できません。
高度な機械やコンピュータ等の設備投資が労働生産性を向上させる、という考えも間違っています。つまり、より高度な専門知識を持った労働者(MRI・CT技師やSE等の知識労働者)が必要になるからです。例えば、先端医療機器の導入を進めている病院は、利益が増加するどころか減少するという問題を抱えています。
すなわち、これまでの生産性の考え方がもはや通用しなくなったということです。
P・Fドラッカーは、約半世紀前にこのことに言及し、この生産性をマネジメントする最終責任者は経営者であり、経営資源は、人、モノ、カネの三つの要素から構成され、中でも、人を、肉体労働者と知識労働者に分け、知識労働者の知識こそが重要な生産資源であり、それを「知識とは情報を特定の仕事に応用する能力」という言葉で表現しました。生産性向上の要点は、特に「知識の生産性」にあることを強調してきました。「知識を経済的成果に変える」という、この生産性の向上こそが、経営者や管理責任者が取り組むべき最重要課題であることを再認識する必要があります。
(一般社団法人日本宿泊産業マネジメント技能協会会員)