近年、地域活性化やまちづくりの効果的な手段として、地域固有の商品・サービスを観光資源とし観光客誘致を図ろうという取り組みが全国の地域で活発に行われている。その背景には、地域の人口減少や少子高齢化問題、財政問題、地場産業の衰退、中心市街地の空洞化、さらに平成の市町村合併による地域アイデンティティーの低下などがある。
地域は、地場産業の復活、地域内消費、税収の拡大など地域の活性化を求め、さまざまな政策および施策を講じている。特に、交流人口の拡大による域外消費の増大など、際立った地域資源のない地域においても、必ず存在する食や食文化に注目している地域が数多く見られる。
レジャーとしての旅行が定着し、成熟度を増し、旅行動機や目的が多様化、個性化、高度化する中で、地域の食や食文化は、観光行動の大きな要素となり、その動機、目的となっていることは、多数の観光調査や研究によって立証されている。実際に、長い歴史と伝統を持つ食や食文化により観光まちづくりが継続している地域もある。また、ご当地グルメと呼ばれる地域に根付いた庶民食、あるいは低廉な創作料理を観光資源としてまちづくりに挑戦する地域が増加し、安定的に観光客を誘引している地域もある。地域の食を購買する旅、その生産現場を体験する旅などバリエーションも拡大している。
しかし、フードツーリズムを生かした観光まちづくりに限るわけではないが、観光まちづくりにおいて地域経営の感覚が不足しているケースが多数見られる。これに対して、効果的マーケティング手法の検討が求められるものの、積極的にまちづくりに組み込んでいる地域は決して多くない。フードツーリズムに関する研究も徐々に始まっているが、観光資源としての「地域の食」の重要性、フードツーリズムの全体像や概念・範囲、フードツーリズムを活用した観光まちづくりの実態と分析など、この分野の持続可能性や体系化に向けての議論の必要性が高まりつつある。
(帝京大学経済学部観光経営学科 金振晩)