原宿の竹下通りを抜けて、さらに数分歩いたところにMOMINOKI HOUSEがある。日本で最初の自然食レストランといわれ、先月開業46周年を迎えた店だ。オーナーシェフの山田英知郎さんは、「食べるものが心と体を作る」というコンセプトのもと、自然農法の食材を苦心して集め、料理に使用してきた。山田さんの扱う自然農法の作物は、有機肥料すらも使わず、無農薬、無肥料で育てたものだ。
この店は海外のアーティストからも愛されており、数十年前に米国のミュージシャン、スティーヴィー・ワンダーが食事に訪れた際には、店内でミニライブが行われた。
ライブが行われたいきさつは次の通り。食事をしていたスティービー・ワンダーから「電話をしてほしい」と番号を聞かされ、言われるままに電話をつないで受話器を本人に渡したら、その数十分後にタクシーでキーボードとアンプ一式が届けられ、あれよあれよという間に弾き語りのショーが始まったという。お店に居合わせた他のお客さまも大感激。そう、その日は貸し切りではなく通常営業中だったのだ。「前日にドームでコンサートをしていた人が、この店内で歌っていたんですよ」と、山田さんは少年のような笑顔を見せてくれた。
山田さんが「このようなことはよくあるのですか?」とスタッフに尋ねたら、「初めてです」とのこと。気持ちのこもったおいしい料理はこうも人を動かすのかと、私自身もこの話に心を踊らせた。
山田さんは、いつも精力的にさまざまな取り組みをされている。数年前、山田さんにこんな質問をした。「やりたいことは常にたくさんあると思いますが、どのように取捨選択をしているのですか?」と。ちょうど私自身が好奇心のままに仕事の手を広げすぎて心身ともに参っていた時期だった。
山田さんの答えはシンプルだった。「そこに価値はあるか?ということですよ」と。私はあわててメモ帳に書き留めた。
価値があるかどうかの見極めが、これまた難しい。
(宮城大学食産業学群フードマネジメント学類准教授 日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 丹治朋子)