【シニアマイスター経営の知恵 186】中国における「代講観光」 帝京大学外国語学部国際日本学科 講師 渡部瑞希


 アフター・コロナ期の中国人観光客の「消費活動」に興味深いトレンドがみられる。海外旅行の動機としてショッピングがあげられるが、中国人観光客にとってのショッピングとは、単に土産物や旅先の思い出の品を買うだけでなく、親族や友人あるいは面識のないSNSのフォロワーの代わりに、旅行先の商品を買って売るという「代講」(中国語で代购:Daigou)を意味する。

 ただし、これは従来の中国人観光客の爆買いや転売とは若干異なる。代講とは、コロナ禍で飛躍的に進歩した中国のライブ配信サービス、「直播」(中国語で直播:Zhibo)を使い、旅行先の魅力的な商品を中国本土の消費者にリアルタイムで見せながら消費を促すものなのだ。まさに、テレビショッピングならぬ「観光版SNSショッピング」が中国のアウトバウンドのトレンドになっている。

 筆者の調査地であるネパールの首都、カトマンズの観光市場タメルでも、この「代講観光客」はタメルのさまざまな店でビジネスをしている。彼らは店に入ると、スマートフォン越しの顧客とリアルタイムでつながり、商品の品質や価格について詳細に説明する。顧客から購入依頼があれば、旅先から商品を即座に郵送する。彼らの購買力のおかげで、タメルの観光業はオン/オフシーズンに影響を受けることなく回復に向かっている。

 こうした「代講観光客」を日本の観光業界は果たして受け入れられるだろうか。「迷惑」という言葉が人びとの行動を規制するこの国で、店内の商品を片っ端から動画で映し出し、店員に価格交渉をもちかけ、スマートフォンに向かってずっと中国語で話すようであれば、「代講お断り」の札が店先に立てられるかもしれない。

 まずは、観光代講のトレンドを的確にとらえ、受け入れの是非を検討することが肝要である。「代講観光客」の購買力は、画面の向こうに控える数億の中国人消費者のそれなのだから。

 (帝京大学外国語学部国際日本学科講師 渡部瑞希)

 
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