2024年の訪日客は史上最多の3310万人を見込むようだ。地方の温泉地でもFITらしき観光客を見かけることが多くなっている。
しかし「地方温泉旅館」の人気は今一歩のようだ。大きな要因の一つが旅館の特色である「1泊2食」の「食事」にあるのではないだろうか。
旅館の得意分野だった団体客は縮小し、宴会型といわれる料理は居場所を失った。満足度の高かった「おまかせ」が個人客にとっての「おしつけ」へと変化していき、食材の値上がりと人手不足が加わり、急速に陳腐化かつ時代にマッチしなくなった。きつい表現をすれば、楽しくない、気軽でない、自由がない、ナイナイ尽くし料理が旅館料理だ。
限られた日程で日本らしい食事をする機会を逃したくない訪日客が、日本で食べたいものはなんだろう。ラーメン、本場のすし、天ぷら、焼き鳥、すき焼き、ウナギ、もしくはその地域で取れた旬の素材のお料理だろう。その上、一般的にその日に食べたいモノはその日に決まる。旅館料理に対応できないことばかりだ。
解決策は地域全体でのバリエーションを増やすことしかない。地元客中心のレストランや居酒屋、牛丼屋や定食屋、ファストフードなどの大手を含むチェーン店などは、訪日客にとって魅力あるコンテンツだ。しかし、地元客を中心とした小規模店舗は一見さんに冷たいし、海外客対応のための多言語対応や接遇方法にノウハウもない。
地方での観光ハブは温泉旅館であり、集客手法も接遇ノウハウも一定以上程度ある。積極的に旅館が地域にお客を紹介し、ノウハウを共有化することで、地元飲食店での訪日客受け入れも可能になるのではないか。旅館はこれを機会に泊食分離を含めた役割分担を進め、高付加価値でストーリー性のある和風コース料理を担当し、バリエーションは地域社会にお願いする。顧客を抱え込まずに温泉地内に回遊させることで、発展する観光地が見込める未来がある。
(日本宿泊産業マネジメント技能協会会員 株式会社常磐ホテル経営企画室室長 鈴木尚史)