【シニアマイスター経営の知恵 206】変わらない身体を切り替える パワースポットとバージョンアップ 武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科教授 荒川歩


 人の人生というのは不便なもので、ゲームのように簡単にリセットできないので、どうもうまくいかないことが続いても人は仕方なく今ある人生をだましだましやり過ごしていかねばならない。それでもどうもいろいろ過去の有象無象が自分にへばりついているなと感じたとき、人はいろいろな形でプチリセットを試みる。

 簡単なのは、自分の体に触ること、水を飲むこと、トイレに行くこと。それでもだめなら、何かを食べる、カフェインをとる、シャワーを浴びる。余裕があれば、カフェに行く、友達としゃべる、仲間と飲む、スポーツやゲームをする、ネットを見る…。いずれも、脳に直接・間接に刺激を与え、今という時間と違う時間に身を置くことで今の時間から少し距離をとらせてくれる。

 他方、もっと強力に過去と決別し、新しい時間を生きる方法がある。従来、髪を切る(そる)、ピアス穴をあけるなど身体的イニシエーションを伴って行われていた成人や入信などがその例であろう。そこまでいかなくても、たとえば、パワースポットと呼ばれる場所に行ったり、ご利益のあると期待するものに触れたり所有・携行したりするものも新しい自分になるという意味ではそれに含まれるかもしれない。

 心理学の研究によると、信仰している宗教があるかどうかにかかわらず、(聖なる方向でもけがれの方向でも)人は人知を超えた力の存在を信じる人は少なくない。だから完全に清掃した後でも事故物件を嫌がる人はいる。通常、特別な力が付与されるには、特別な力(資格)を持った人(たとえば宗教指導者等)、超越的行為のための道具(たとえば神具・仏具など)、超越的行為の儀式という要素があると考えられている。ある研究では道具というのが特に重要で、手続きが大胆に違っても特別な力を持った人が特別な道具で行っていれば効果はあると信じられるし、そもそもモノについて人は「伝染」と呼ばれる機能を想定しがちであり、聖なる道具にふれたものには、多少弱まるにせよ同じ傾向の力が付与されると感じられるらしい。パワースポットを訪れるご利益は、そんな人間の認知特性によって下支えされている。だからこそわたしたちは、パワースポットを訪れることによって、ちょっと新しい自分になったと感じられるのであろう。

(武蔵野美術大学クリエイティブイノベーション学科・教授 荒川歩)

 
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