ヨーロッパの町や村を歩くとき、見かけた教会にふと立ち寄ることがままある。教会の中に入れば、その地域の人々の暮らしや文化が垣間見られるからということもあるし、椅子に座って静寂の中で聖人像や祭壇、美しいステンドグラス、そして趣向を凝らした高い天井などを眺めていると、信徒ではなくとも慣れない土地でざわめく心が落ち着いてくるからでもある。心の整理や準備がついて、その後の行動もスムーズにいく。
しかし、最近は世俗化やそれにともなう管理者の不在などにより閉鎖され、入ることのできない教会も時折みられる。非常に残念なことではあるが、その一方で使われなくなった教会自体を別用途に転換する例も多くみられるようになった。いうなれば教会の「復活」というところだろうか。
イギリスの農村部では教会が住居に転用されたものをしばしば見かける。元の大きな玄関を車の入るガレージにしたり、縦長の窓を明かり取りとしてうまく活用するなどさまざまな趣向や工夫がみられるのも面白い。また、オランダのフフトでは教会を改装した図書館(DePetrus)があるほか、同じくオランダのマーストリヒトにはカフェも備えた書店(Boekhandel Dominicanen)などもあったりする。いずれも教会の高さを生かした開放感のある空間で本選びを楽しめる。
さらに、これまたオランダ・ハーレム(Jopenkerk)やベルギー・ヴェッテレン(Heilig Hart Brouwerij)、そしてスウェーデン・スンドビュベリ(Omnipollos Kyrka)などには教会を使用したビールのブルワリーがある。どのブルワリーも非日常的な雰囲気の下にビールを楽しむことのできるバーや試飲スペースを設けており、フードツーリズムの新たな観光施設として親しまれている。このような厳格な宗教施設を大胆にかつサステイナブルな形で転用する姿には、ヨーロッパの人々のセンスや思考の柔軟性が感じられる。
さて、筆者が最近見かけた教会転用物件は、北アイルランド・デリーの町で見つけたスポーツジム(Million Dollar Fitness)である。通りがかりだったこともあり利用することはしなかったが、ただのジムよりも効果がありそうなのは気のせいだろうか。
(帝京大学経済学部観光経営学科准教授 飯塚遼)