2024年7月に世界文化遺産に登録された「佐渡島の金山」。夏休みや秋の連休には多くの観光客でにぎわった。登録までは「評価基準」のルールをめぐり紆余曲折あったものの、めでたく後世に残すべき「人類共通の宝」となったのである。
金山の存在は、全島に30以上現存する能舞台や120以上の集落で伝承される民俗芸能鬼太鼓など、豊かな芸能文化という副産物をもたらした。佐渡では春や秋に集落の例祭が行われる。鬼太鼓や獅子が神社で奉納された後、集落内の一軒一軒で門付けを行い、無病息災や豊作を祈願する。
しかし近年、人手不足による芸能の伝承の困難が生じている。かつて主な担い手は若衆、すなわち18~35歳の男性であった。だが少子高齢化が進む佐渡島の人口は、ピーク時の半分以下である。そのため佐渡市では、地元のNPO「佐渡芸能伝承機構」などと連携しながら、大学生をはじめとした交流人口の拡大を積極的に行っている。
佐渡が誇る景勝地尖閣湾を望む達者集落。ここでは2024年10月、コロナによって中断されていた豆まき型鬼太鼓の門付けが5年ぶりに復活した。やはり人手不足に悩むこの集落では、コロナ前から筆者の勤務大学の学生が祭りに参加するなど、外部との交流に積極的に取り組んできた。今年の祭りも、青年会のみならず、2歳から80代までの地元の老若男女、帰省者にUIターン者に大学生、世代も性別も、居住地も出身地も多彩な参加者によって支えられていた。久しぶりとなった笑顔あふれる祭りの様子を見ていた氏子総代がポツリ、「昔のしきたりでは考えられないなあ」。しかしその表情からにじみ出ていたのは、芸能の変容への嘆きではなく、時代に即して伝承されていく地元の芸能への愛着であり、誇りであった。
後世に残していくのは、「しきたり」やルールではなく、祭りや芸能とそれを支えるコミュニティである。「人類共通の宝」で観光客を誘致するのはもちろん、交流・関係人口とともに「地域の宝」を伝承していくことが、この離島には求められている。
(獨協大学外国語学部教授 鈴木涼太郎)