観光先進地欧州では毎年夏に家族や友人とバカンス旅行を楽しむのが日常だ。その背景には、1936年にフランスで成立した“バカンス法”が関係している。バカンス法とは「労働者は1年勤務につき3労働週(現在は5労働週)の年次有給休暇の権利を持ち、分割取得は可能だが連続2労働週を下回らないものとする」法律である。わが国では、働き方改革や有給取得拡大に向けて、シルバーウイークやワンウイークバカンスを推進してきたが効果のほどは今一つに見える。やはり産業界や企業側の理解も必要なのであろう。
バカンス旅行(長期滞在型観光)とは、ある1カ所に長く滞在し、現地の人との交流を通して文化、生活習慣に触れる旅行の一形態であり、短期旅行では味わえない人と人、人と自然とのふれあいによって充足される旅の時間である。ワークライフバランスを推進する欧州各国にとってこの旅行形態は豊かな生活の一部として、また、経済の好循環の基盤として機能している。私は実際にドイツで5年間の滞在経験があるが、ドイツ人は「人生を楽しむために仕事をする」という価値観を持ち、長期休暇を活用することで、オンとオフを上手に切り替えていて感心させられた。
日本でこのバカンス法を批准できれば、多方面で大きなメリットを享受できると考える。まず、バカンス旅行が定着することで日本の観光産業の需要平準化による生産性の向上と収益性の拡大が可能となる。また、滞在型観光の受け入れシステム対応も整備され、日本政府が6千万人を目標としているインバウンドの増加と富裕層の取り込みも可能となるであろう。そして欧州で人気の「アグリツーリズム」のように長期休暇取得中に地方の農村での収穫の人手となり、生活と観光を同時に楽しむ旅行形態が日本で実現できれば、労働力不足対策や地域活性化につながるに違いない。
石破新政権は地方創生を政策の柱と掲げるが、地方自治体が長期滞在型観光プログラムを推進し、地域DMOがそれを支援するという枠組みを構築できれば理想だ。さらに言えばそれが日本の課題である人口減少、地方社会の疲弊を解消し、豊かな社会の実現の道を開くであろう。
(ロングステイ観光学会理事 弓野克彦)
※観光経済新聞11月18日号掲載コラム