【シニアマイスター経営の知恵 211】オーバーツーリズムから見たインバウンド受け入れの意味 帝京大学経済学部観光経営学科教授 吉村久夫氏


 オーバーツーリズムというと観光地を大勢の外国人が歩いている映像がよく使われるが、日本人が多く旅行するゴールデンウイーク、お盆、年末年始の観光地の混雑も何十年前から続いているオーバーツーリズムである。しかしこれまでは現在ほど問題視をされてこなかった。これはやはり習慣や価値観の違いがある外国人に対する日本人の受け入れ力からきているところもあると感じる。

 国連世界観光機関の報告書によるとオーバーツーリズムの定義は「デスティネーション全体またはその一部に対し、明らかに市民の生活の質または訪問客の体験の質に悪い形で過度に及ぼされる観光の影響」としている。つまり地域住民だけでなく、旅行者にも影響があるということである。

 オーバーツーリズムによって発生する問題は交通混雑、ゴミ問題、マナー違反などいろいろあるが、中でもマナー問題は昨今特に注目されている。

 私は「マナー違反」と言われている事象には2種類あると考えている。ひとつは「価値観の違いや不認識で行う不適切行動」でもうひとつは「意図的なルール違反」である。前者は故意でなくても、日本の慣習や価値観の理解が十分でないために、日本人が眉をひそめる行動をとってしまうことである。

 これらの行動に関しては、なぜ日本ではそれが好ましくない行動になるのかを外国人旅行者が理解する手法で丁寧に説明していくことが肝心である。多くの外国人旅行者はやってはいけない理由を説明すれば理解をし、行動する。

 一方で「物を壊す」「盗難」「落書き」などは「意図的なルール違反」である。これらの行為は毅然と罰則を伴う対応をしていく必要がある。

 この二つをひとくくりにとらえるべきではない。現在行政や事業者はインバウンドの経済的側面を前面に出しているが、外国人旅行者が増えるということは日本で消費が拡大するだけでなく、交通も混雑するし、ゴミも増えるし、価値観・習慣の違う人たちが日本を訪れるということであることを忘れてはならない。外国人旅行者を受け入れることの意味と価値を日本人も理解し、行動することが必要となる。

(帝京大学経済学部観光経営学科教授 吉村久夫)


(観光経済新聞12月2日号掲載コラム)

 
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