ニューヨークホテル協会が80数年前にホテル会計基準「ユニフォームシステム」を構築した。わが国の宿泊業界を比較しての議論もあるが、1世紀近く前に事業経営の視点から数値管理の必要性を認識したことに敬意を表するが、稼業としての日本の宿屋文化、千年の歴史と単純比較はなじまないと感じている。
比較文化論の視点から、論理的な検証をした文献があれば教えていただきたいと念願しているが、建築デザイン・ハードウェアは、日本の和のテイストを取り込んだクラシックホテルとして文化遺産とし、評価を受け継承されている。
しかしホテル事業を、明治100年の歴史からホテル事業投資として見ると、経営管理効率の概念は希薄であったかに思われる。唯一の例外は昭和13年創立の新橋第一ホテルである。昭和の初めに東洋最大626室、全館冷暖房を装備して、創立次年度から戦中、戦後、平成まで配当を続けてきた、一部上場ホテルであったが、平成バブル破たんで倒産した。経営資源3要素である、ハード、ソフト、ヒューマンの、最後のヒューマンの領域に問題があったと、シンクタンクの指摘がある。
グローバル化、市場環境の急速な変化にマネジメントはいかに対処すべきか? ハイレベルな経営責任能力を問われる時代を担う人材育成は急務である。
シニアマイスターネットワーク(SMN)は国家検定・職業能力の評価基準の構築を進めているが、ホテルも1万軒を超える昨今、業界標準の設定は遅きに失するとはいえ、グローバル化の中、インバウンドに支えられるのは、いかがなものか。バブル期のホテルが需給バランスのフォローな市場に乗っただけとの反省もほしい。開発投資視点から宿泊産業の在り方を観れば、魅力ある事業である。SMNが現行モデルの改良を進め、完成度を高めることを宿泊業界のために期待したい。
東急電鉄の五島さんはヒルトンとのMC契約・中途解除訴訟を起こし敗訴した。有名事例であるが、わが国ホテル業界の数値管理に、大きな刺激を残し貢献された。今日のマネジメントには古典であるが、いまだにカタカナブランドを有難がるオペレータのパックスアメリカーナ信仰は、そろそろ卒業してほしいものである。一方、デベロッパーがカタカナブランドを、付加価値付けに利用しているのは、お見事といえる。
(NPO・シニアマイスターネットワーク理事長 流通科学大学名誉教授、作古貞義)