2013年ごろから始まった訪日外国人の爆発的増加はとどまるところを知らず、政府の発表によれば、2018年度の訪日外国人数が8月15日時点で2千万人を突破したという。これは5年前の実に3倍のペースである。まさしく観光業界は空前の好景気にあると言えるだろう。
しかし、これは決して安定的に継続するものではない。現在のインバウンド需要は東アジアの経済成長を背景としているが、市場が有限である以上、必ずどこかで後退局面が訪れる。その時に、命綱となるのは足許たる日本人(国内)の需要だ。われわれは、この国内需要をも大切にし、育てていかなければならない。
では、その国内需要の現状はどうか。国土交通省の「旅行・観光消費動向調査」によれば、この10年間は旅行者数、旅行単価共にほぼ横ばいで推移している。ある意味で安定していると言えなくもないが、人口減少等によるゼロサムゲームが加速する中、肝心の観光事業者が従来のコモディティ化された顧客対応プロセスのままでは、ジリ貧となるのは火を見るよりも明らかであり、中長期的な旅行者数の減少は避けられない。だからこそ、旅行(顧客)単価の向上を狙った戦略への転換を図らなければならない。
マーケティングの世界では、「2割の顧客が8割の売り上げをつくる」といわれる。単価の向上には、その2割の顧客(ロイヤルカスタマー)とのつながりを、これまで以上に深めていくことが必須条件となる。単なるバラマキではダメだ。彼らを深く知り、彼らの感情に響く施策を徹底的に打ち、自社のこと(商品)を「愛してくれる」ような顧客を育てていくことが肝要となる。
当然ながら、これらは短期間で簡単に実現できるものではない。現在はCRMやO2Oといった専用のソリューションもあるが、それでも3~5年はかかるだろう。ゆえに最も重要なことは経営トップの強い覚悟だ。覚悟を持ってロイヤルカスタマーづくりに取り組むことで、売り上げ(単価)は後から付いてくる。
(NPO・シニアマイスターネットワーク専務理事、西宣秋)