「GAFA」と呼ばれるIT企業群が世界の人々の生活を大きく変えてしまったが、90年代後半のOTA登場以来、宿泊産業も客室の販売方法の大変更を余儀なくされて久しい。最近では、国内外のOTAに加え、民泊だけを取り扱っていると思われていたAirbnbが手数料の安さを武器にホテル・旅館を取り扱い始めたとの報道もあったが、日本発のユニークなサービスが登場していることをご存じであろうか?
そのサービスは、急用や急病で行けなくなったホテル・旅館の予約を売ったり買ったりできる「Cansell(キャンセル)」というものである。予約していたホテルに行けなくなった人は、予約を出品することで、支払うべきキャンセル料を軽減することができる。一方、泊まりたい人は、出品されている予約を購入することができ、定価よりもお得な値段で宿泊施設を予約することが可能だというものである。また宿泊施設は、空くはずだった部屋を稼働させることができる。出品者・購入者・宿泊施設の三方にメリットがある日本初の仕組みだとのことである。出品施設は全て審査し、出品者と購入者でトラブルがないように配慮しているし、高額転売は禁止しており、トリバゴのような比較検索機能もある優れものである。
宿泊施設は、パートナープログラムに加入すればキャンセル料の保証を受けられるほか、世界最大の口コミプラットホーム「トラストユー」をはじめとするさまざまな特典やサービスが受けられる。海外展開は、現在米、豪、東南アジア等15カ国で、今後多言語化を進め欧州にも広げていくとのことである。
社名の由来は、「取り消し」や「解約」を意味するキャンセル(cancel)を、売ることができる(can sell)ということからつけられたとのこと。
ノーショーやキャンセルは織り込み済みとする宿泊施設サイドからはなかなか発想できないサービスであるし、レピュテーションリスクを懸念される方も居られるであろう。
経営者は「世の中にたくさんあるであろう未解決の課題を解決するために、自分が作ったサービスが必要とされ、困っている人たちに受け入れられて、使ってもらえたらうれしい」と3年ほど前に起業した30代前半の若者である。
私とこの会社に一切利害関係はないが、わが国の若者が手掛ける日本発のユニークなサービスとして今後も見守っていきたいと思っている。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 文教大学国際学部国際観光学科特任教授 黒沢直樹)