ホテル・旅館ビジネスにおいて、特に“ヒト”の有効活用が最も重要なことはご存じの通りである。特にミッドスケール以上のホテルカテゴリーにおいては、レイバーコスト(人件費)が固定費の中で多くを占める割合が多く、いかに個々の状況で限られた人材を有用に最大限活用するかは、過去にもこれからも、ホテル経営の本質であると考える。
ホテル経営学といえばアメリカの学術が世界的にも著名であるが、20世紀のアメリカにおける“ヒトの働かせ方”の変遷、具体的には、人事管理(Personnel Management、略してPM)から人的資源管理(Human Resource Management、略してHRM)、その後はビジネスパートナー・アプローチや資源ベース・アプローチという移り変わりを見せる。
これらを日本のホテル業界に照らし合わせてみると、一つの課題が浮き彫りになるのではなかろうか。アメリカの場合、ホテル産業のみならず多くの産業において早い段階から、単なる“人事管理(PM)”から、人材を経営戦略実現のための「経営資源」と捉え、中長期的に教育や能力開発などの投資を行って、一人一人の生産性を上げる方向に転換しているが、このように、“従業員の価値”を重視するマネジメントの考え方を実践し、本来の意味での“人的資源管理(HRM)”の考え方の本質を理解する場合において、特に“ヒト”の有効活用を最も重要と考えるならば、日本の多くのホテルの人事部門は多くが単なる“人事管理(PM)”の状態なのかもしれない。
具体的には、採用や勤怠管理など日常的に発生している業務などにとどまり、本来の意味において「豊富な熟練を持ち、創造的で、多くの専門分野を有する人材資源」を企業が生み出し育てることができるような、開発セオリーへの移行が、果たしてできているであろうか。
昨今はAIの台頭が叫ばれるが、そのような時代にこそ、「ヒトの仕事が奪われる」と悲観的ではなく、それらのAI技術を有効活用することによって、ただでさえ低いホテル業界の生産性が向上する機会を付加価値と捉え直すと同時にホテル業ならではの優秀な人材をさらに資源開発することで、“ヒト”でしか担えない付加価値を創造する時代がすぐそこまで来ている気がする。
最後に、「風林火山」で有名な武田信玄の甲陽軍鑑の言葉を借りて結びとしたい。「勝利の礎勝敗を決する決め手は、堅固な城ではなく、人の力である。個人の力や特徴をつかみ、彼らの才能を十分に発揮できるような集団を作ることが大事である。また、人には情理を尽くすこと、誠実な態度こそが相手の心に届き、人をひきつけることにつながり、逆に相手を恨めば必ず反発にあい、害意を抱くようになる」
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 エバーグリーンインターナショナルホテルズ日本地区代表 諸岡潔)
=隔週掲載