ホテル・旅館が事業活動を継続的に優位に進めるためには、顧客満足度を高めリピーターを増やし維持することが必要不可欠である。客室、レストラン、宴会場の施設・設備の開発は、優先されるべき施策ではあるが、すぐに模倣され価格競争に陥りやすく、継続的に優位性を保つことは難しい。
顧客との良好な関係を長期的に築くこと、すなわち顧客生涯価値(LTV=Lifetime Value)に目を向け、明確な戦略を打ち出すことが重要となってくる。インバウンドも団体客から個人客・リピート客へと質的な変化も始まっており、目の前の一過性の利益を追求しているだけでは到底勝ち残れない事業環境となってきている。
では、どのようにアプローチすべきか。まずは、サービス活動全体の方向性を示すことが土台となる。そのためには顧客のセグメンテーションを行い、サービス・コンセプトを明確にすることが重要である。
次に、その方向性に応じたサービス活動の仕組みを作り、外観や内装といった施設・設備、接客する従業員、サービスを受ける顧客、これらの相互作用を通じてサービスの品質を向上させることである。顧客自身もサービスを生み出す過程、およびサービス品質が決まる過程に参加していることを認識しておかなければならない。来館・来店する顧客が、ホテル・旅館の印象や評価を作り出してもいるのである。
最後に、よいサービスを支えるための従業員の満足度を上げることである。従業員が意欲を持って働ける職場づくりのために人材育成や権限委譲など従業員に働きかけること(インターナルマーケティング)が重要である。
30年ほど前の事例ではあるが、SAS(スカンジナビア航空)のサービス戦略を紹介し話題となった「真実の瞬間」という本には、従業員が顧客と接する最初の15秒間(真実の瞬間)の接客態度が企業の印象や評価を決める、とある。果たして日本のホテル・旅館はこの“真実の瞬間”のためにどれだけの心血を注いでいるだろうか。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 株式会社ブライト取締役 大内茂晴)