東日本大震災から6年の歳月を数えたが、その傷跡はいまだ癒えぬまま今日に至っている。昨年には熊本大地震に見舞われ、さらに、多年にわたって論議されている首都圏直下型や南海トラフ大地震の発生で想定されている激甚災害は、いつ現実となってもおかしくないとされている。この国は「震災大国」であることから逃れられない運命にあると言えよう。
このような環境にある日本のホテル、とりわけ都市中央部に集中する大型都市ホテルにおいては、何をどのように考え事業の将来に備えていけばよいのか、しばし立ち止まって考えてみる必要があるのではないだろうか。
大都市中心部での大震災の実態は、今をさかのぼること22年前、1995年1月17日早暁に起こった震度7、マグニチュード7・3の直下型大地震である阪神淡路大震災に典型的に見られる。その時、神戸市内の主要ホテルでは何が起こっていたのか。
早暁であったため、ホテルの最も恐れる火災は幸い免れたものの、インフラや交通、流通が途絶し、情報も極めて限られた、いわばホテルがホテルであることの物理的条件を失った状況の中で、館内の安全確認に始まり、宿泊客の早急な安全地域への避難誘導、水・食料や対応する従業員の確保など、想像を絶する苦難の連続があったことは、いまだに鮮明な記憶として残っている。
初期の対応が一段落、インフラなどが回復した後も、館内外の修復はもとより、災害復旧拠点施設としての地域協力や、長く続くホテル需要停滞への対応など、多くの困難を乗り越えていかねばならなかったことは、想像に難くない。
以来、建物の耐震性向上や震災時対応への従業員教育の強化など、個々のホテルにおいて、ホテル界に伝統的にある「顧客の生命財産を預かる」仕事であるという日常の理念の一層の強化が図られたことは言うまでもない。
しかし、これだけでホテルの事業上のリスク管理は万全なのだろうか。将来に向けてホテル事業が用意すべきこととは何なのか、後編において、さらに考えてみたい。
(NPO・シニアマイスターネットワーク会員 元横浜商科大学教授、櫻井宏征)