【テツ旅、バス旅 104】JR西日本の「無限大」パス 鎌倉 淳


 JR西日本が「JR西日本無限大パス」という、興味深いきっぷを発売しています。JR西日本のICOCAエリアの普通列車が30日間、実質乗り放題になります。価格は5万240円。在来線特急は別途料金で利用できますが、新幹線は一切利用できません。

 仕組みは少し複雑です。「KANSAI MaaS」でのみ発売し、登録したICOCAを使って、自動改札機を通ります。このとき、運賃はICOCAから差し引かれますが、翌月末に、利用した運賃相当分がポイントで全額返還されます。要するに、約5万円を先払いしておくと、30日間で乗った運賃相当額がポイントで返ってくる仕組みです。

 5万円の元を取るのは大変です。在来線なら、たとえば大阪から兵庫県の豊岡へ9往復しなければなりません。京都―三ノ宮間なら23往復です。30日のうち、平日に毎日京阪神を往復して、やっと元が取れるわけですが、同一区間の毎日利用なら定期券のほうが安いでしょう。

 1カ月間で5万円となると、週末旅行や通勤利用だけでは、元が取りづらそうです。そのうえ、ICOCAエリア限定、一度に200キロ以内の利用という制約もあり、使い勝手がいいとはいえません。

 お得に使うには、在来線特急を活用して、近畿エリアの中距離を一定頻度で乗車することでしょう。たとえば、豊岡に住んでリモートワークをしつつ、週2、3日程度、大阪に出社する方には向いているかもしれません。勤務先から150キロ程度の土地に居を構えた「リモート併用通勤者」が定期券代わりに活用するには、悪くないきっぷです。

 ただ、その割には価格がやや高く、在来線しか使えないこともあって、対象者は限られそう。発売後のネットのつぶやきを見ても、購入したという声はほとんど見つけられません。

 当然、発売元のJR西日本としても、利用者が限られることは想定内でしょう。それでもあえて発売したのですから、目的があるはずです。たとえば、こうしたサブスクに、どれだけの需要があるかを見極めるための実験的な位置づけかもしれません。

 将来的に交通系ICカードのシステムがクラウドに移行すれば、同様のサービスをより広域で、新幹線も利用できる形で提供できるようになるでしょう。今回の販売状況をみたうえで、新たなサービスの展開を検討しているのでしょうか。

(旅行総合研究所タビリス代表)


(観光経済新聞2025年3月10日掲載コラム)

 
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