かつて、地方都市の交通機関の主役といえば路面電車でした。高度成長期以降、各地でどんどん廃止されてしまいましたが、往年の面影をいまも伝える路線があります。高知市を中心に運行している、とさでん交通の路面電車です。
最盛期の路線網をほぼ維持していて、軌道の総延長は25キロに及びます。現在も残る路面電車の軌道としては日本最大規模です。
車両もレトロで、車齢60年を超えるものも少なくありません。昭和30年代に製造された車両が、いまも走り続けるさまは、さながら「動く路面電車博物館」です。
先日、高知に行った際に、乗り直してみました。路線網は十字型で、はりまや橋を中心に四方に伸びています。東端のごめん停留所から乗車し、高知市中心部に向かいます。やってきたのは、昭和30年代に製造された車両でした。
路面電車といっても、郊外区間は道路ぎわの専用軌道が多いのですが、交差する道には踏切がありません。民家の玄関に軌道が面している場所もあり、電車は警笛を鳴らしながら、慎重に走ります。
高知市中心部では、道路中央に軌道が敷かれ、走行はスムーズ。ただ、停留所が多いので、所要時間はかかります。
白眉は朝倉方面。狭い道路に軌道が敷かれていて、走行空間は自動車と共用。おまけに単線区間で、下り電車は右車線を走ります。自動車が向かってくると、正面衝突しそうでどきりとします。迫力満点ですが、令和の時代に危なくないか、と心配になります。
全体に揺れがひどく、乗り心地が良いとは言えません。レールの交換もあまり進んでいない様子。とさでん交通の経営は厳しく、思うように設備更新ができていないことがうかがえます。だからこそレトロな雰囲気を醸し出していて魅力的なのですが、沿線の利用者としては、もう少しお金をかけてほしいところでしょう。
高知市は、昨年にまとめた「地域公共交通あり方検討結果報告書」で、公的補助の拡大や、上下分離の検討などを提言しました。「適正な軌道延長について検討すべき」とも記していて、路線短縮の検討も促しています。
往年の面影を残す路面電車も、そろそろ転換期を迎えている様子。地域の方が使いやすい形で、今後も走り続けてほしいものです。
(旅行総合研究所タビリス代表)