はじめて夜行高速バスに乗ったのは、1980年代の終わりごろでした。3列シートを初体験し、「なんて快適なんだ」と感動した記憶があります。
当時はまだ夜行高速バスの黎明(れいめい)期で、ゆったりした3列シートは、それまでの「バス」のイメージを覆す衝撃でした。幅が広く、リクライニングは深く倒れ、熟睡とまではいかなくても、翌日の行動に支障ないくらいの睡眠はとれます。以来、夜行バスに乗るときは、基本的に3列シートを選んできました。
しかし、年齢を重ね、最近は、3列シートでも夜行バスはしんどくなり、敬遠するようになってきました。趣味として乗るのならともかく、実用として使おうとすると、翌日の疲れが気になります。
そこへ、驚くニュースが飛び込んできました。国交省が、高速バスのフルフラットシートのガイドラインを定めたというのです。
これまで、国内の高速バスでは、安全上、フルフラットシートを使用できませんでした。リクライニング角度はおおむね143度程度までに抑えられています。しかし、ガイドラインでは、フルフラットバスの構造基準を示しました。つまり、「寝台バス」を解禁するわけです。
ガイドラインで示された基準は主に4点。(1)座席は前向き(2)座席の脚部に転落防止プレートや衝撃吸収材などを備える(3)座席の頭部と側面に転落防止措置を施し保護部材を設ける(4)2点式座席ベルトを備える―といったことです。
事故が起きても、乗客が姿勢を保持でき、身体への被害を最小限にとどめられるような構造を求めた形です。
四方をクッションなどに囲まれたような形状になりそうで、正直なところ、この基準を満たすのはなかなか大変そう。しかし、たとえば、半個室の豪華寝台バスなら実現可能でしょう。いまでも「フルフラット風」の豪華シートがありますので、その周囲を衝撃緩衝剤で囲み、スペースを縦に広げるという発想で、完全なフルフラット座席を開発することはできそうです。
仮に実現したら、3列シートの夜行バスが登場して以来の衝撃でしょう。
寝ている間に移動できる乗り物は重宝しますし、横になれれば身体の負担が違います。それだけでなく、乗ること自体が楽しみになるような車両も作りやすくなるでしょう。実現が待ち遠しいです。
(旅行総合研究所タビリス代表)
(観光経済新聞12月2日号掲載コラム)