東海道・山陽新幹線の500系に初めて乗ったのは、1990年代の終わりです。たまたま東京駅から乗った「のぞみ」が500系で、その大胆な外観と、近未来的なインテリアに驚いたものです。
国鉄民営化から10年余を経たころ。民営化とはこういう車両が生み出されることかと、妙な感慨を抱いたことを覚えています。
500系はJR西日本が制作した、最高時速300キロを誇る意欲的な車両です。ブルーリボン賞も受賞し、鉄道ファンから高い人気を集めました。
ただ、初めて乗ったときの本音をいうと、円筒形状の車内には圧迫感も覚えました。当時主力だった300系のほうが、開放感があって、その後、東海道新幹線に乗る際に、あえて500系を選ぶこともありませんでした。
500系は16両が9編成しか造られませんでした。先頭部にドアがないといった実用的な難点もあったからか、2010年には東海道新幹線から撤退。16両だった編成は8両に短縮され、山陽新幹線のみを走る車両になっていきます。自慢の速度も285キロに抑えられてしまいました。
いまのダイヤでは、主に岡山以西の「こだま」で運用され、1日数往復のみが走るだけです。すでに導入から20年以上が過ぎていて、老朽化も進んだことから、27年ころに完全引退する見通しとも伝えられています。
まだ乗ったことがない息子を連れて、乗りに行ってみました。新大阪口に発着する列車は限られるので、福岡へ遠征です。
博多駅ホームで久しぶりに見た500系は、あいかわらずスタイリッシュ。外観からは古さを感じません。しかし、車内に入ると、一転して懐かしさを感じます。当時は近未来と感じたインテリアも、いまとなってはレトロにみえるのが不思議なところです。
ガラガラだったからか、かつて覚えた圧迫感はありません。九州の明るい陽光が車内に差し込んで、穏やかな雰囲気です。
先頭車両にはミニ運転台が付いていて、子どもが楽しめるスペースになっていました。レバーを動かすと、小さな速度計の数字が上がります。ミニ運転台での最高時速は、いまでも300キロでした。
東京在住の著者が、山陽新幹線の博多口で「こだま」に乗ることはあまりありません。今回が最後になりそうで、名残を惜しみながら、お別れをしてきました。
(旅行総合研究所タビリス代表)
(観光経済新聞2024年12月16日号掲載コラム)