EYは18日、新型コロナウイルスの海外赴任への影響や赴任者コストに関する実態の調査結果を発表した。
・今後の海外赴任計画において、新型コロナウイルスによる影響は「ない・または赴任者を増やす」との回答が74%で、赴任者数の減少要因にならない
・リモートで海外などの業務を行う「バーチャルアサインメント」について、「導入は検討していない・興味はあるが具体的に動いていない」との回答が76%。新しい働き方への対応を模索しつつも具体的な動きを取っているのは少数派という結果に
・海外出向者/出張者コストの日本側費用負担に関する税務調査で、「指摘を受けた」との回答は40%に上る
EY税理士法人およびEY行政書士法人は、海外赴任者の実態を調査した「第1回EYモビリティサーベイ」を発表したことをお知らせします。企業の海外赴任計画において新型コロナウィルス(以下、コロナ)が及ぼす影響が限定的となっており、海外業務をリモート対応するための具体的な対応がそれほど進んでない状況であるほか、海外出向者や出張者コストの日本側費用負担において税務調査で指摘されやすいポイントであることが浮き彫りになりました。
本調査は、海外赴任者の実態を明らかにすることを目的とした調査で、2021年から開始しました。主に企業の人事・経理・経営・企画部門等、管理系部門に属する295人(266社)の回答をもとに、海外赴任者に関する実態を調査・分析しました。第1回目のテーマは、「コロナ禍の一時帰国者処遇、利用できないベネフィット・残留赴任者の取扱い、費用負担、赴任者総コスト、任地個人所得税など」です。
<第1回 EYモビリティサーベイの調査結果>
コロナは企業の長期的な海外赴任計画に大きな影響を与えない:
2020年以降、コロナの世界的な流行により、各国の入国・出国制限が強化され、企業の海外赴任計画に大きな影響をもたらしました。今後の赴任計画については、回答者の46%が「コロナによる影響はない」、28%が「赴任者を増やす方向に動くと思う」と回答しました。このことから、赴任者数の減少は一時的なものであり、長期的な海外赴任計画への影響は大きくないという傾向にあります。
コロナのパンデミック等、緊急時の海外赴任者への対応に苦慮:
コロナは全世界にわたり同時期に急速に蔓延したため、世界的に大きな混乱を招きました。各国・地域ごとの対策も異なっているため、特に海外で生活する赴任者に対してどのような対応を行うかは、海外赴任者を抱える企業にとっては大きな課題でもあります。一時帰国させた赴任者に対して、いつまで海外赴任者固有の給与・手当を支給していたかという質問に対しては、回答者の半数が「決まっていない」と回答しました。また「帰国後1年以上」「帰国後1年まで」と回答したケースも7%あり、今回のように、一時帰国させたものの、いつ再赴任するか分からない状況で、いつまで海外赴任者としての給与・手当を支給するのか、前例がないために判断に苦慮する姿も浮かび上がっています。一般的に海外赴任者に対する給与・手当は、国内在勤者に比べて高い傾向にあり、コスト管理の観点からも大きな課題といえます。
また、コロナの影響で赴任者が利用できない福利厚生制度(一時帰国休暇など)の取扱いについては、40%近くが「特別な取り扱いは考えていない」と回答しています。海外赴任者に支給している給与・手当や、月単位、年単位で取得期限を定めて付与している福利厚生制度が、社会情勢等の影響で利用できない場合の取扱いについて、予め赴任者規程などで規定しておくことも解決策の一つです。
コロナによる渡航制限が海外赴任者の赴任形態に影響:
コロナの影響で「家族帯同に制限を設けた地域」については、制限を設けたと回答した企業のほとんど(95社中92社)がアジア・オセアニア地域と回答しており、「家族帯同に制限を設けた国」については、中国、インドネシア、インド等、一時的に感染者数が増大したとされる地域への渡航に制限を設けたケースが多いことがわかりました。赴任者だけでなく、その家族への影響の大きさもうかがえる結果です。
バーチャルアサインメントをはじめとした新しい働き方への関心高まる:
バーチャルアサインメントの導入・検討状況については、「既に導入している」「導入に向けて検討中」が回答者の16%、「導入は検討していない」が42%という結果になりました。また、「興味はあるが具体的に動いてはいない」が34%となっており、新しい働き方への関心は高いものの、実際に導入・検討を行う企業はまだ少ない傾向です。ただし、「海外赴任・海外からの人員受け入れに関し興味・関心のあるテーマ(自由回答)」では、バーチャルアサインメント導入時の課税や、国をまたいだリモートワーク、グローバル人材活用といった新しい働き方・雇用形態について関心を寄せる企業も多い傾向です。
出向先が海外赴任者のコストを全額負担するケースが4割弱:
海外赴任者にかかる費用負担についての質問では、出向先が全額負担するケースが回答者の37%、何らかの形で出向元も負担する場合があるケースが57%でした。出向元が赴任者コストを負担する場合の理由については、回答の半数以上(154社中94社)が「海外赴任により生じるコストは出向元が支払う(いわゆる較差補填)」の考え方に基づいており、負担の内訳については、「出向先の現地給与水準まで出向先負担、残りを出向元負担」とするケースが多い傾向がわかりました。
この考え方に基づく場合の「出向先の現地給与水準」については、根拠となる資料やデータの収集と水準の妥当性の検証を行った上での決定が重要です。
赴任者別総コストの把握状況:
赴任者別総コストについては、一人当たりのコストを把握していないとする企業が回答者の37%という結果となりました。多くの外資系企業では赴任者を送り出す際には事前に赴任総コスト見積もりを行い、出向元・出向先が合意の上で赴任が行われますが、日本企業ではこれらのコストを正確に把握しない状況で赴任者を送り出す傾向もあり、コスト管理の面で大いに改善の余地があることが本調査でも明らかになりました。
海外出向者・出張者コスト税務調査時の注目ポイント:
海外出向者・出張者に関する日本側での費用負担について、過去の税務調査で「指摘を受け課税されたケース・指摘は受けたが課税されなかったケース」が合計40%となっています。出向者コストを日本本社負担する場合は、税務調査時に指摘されるポイントとなる点に、十分な留意が必要となります。
赴任先個人所得税管理体制と申告漏れリスク ~申告漏れ発生は15%~:
赴任者の個人所得税の管理体制としては、「出向先(現地法人)がそれぞれ管理している」が回答者の71%に上ります。出向先ごとに管理形態や税務ベンダーのクオリティが異なることは、現地での申告漏れ発生リスクにつながるため、その申告が正しいか定期的にチェックを行うことがリスク回避に繋がります。
EY Japan ピープル・アドバイザリー・サービス/グローバルモビリティリーダーであり、EY税理士法人 パートナー 藤井恵(ふじい めぐみ)のコメント:
「本調査を通じて、コロナ禍における海外赴任者の取扱いに関し、試行錯誤する企業の実態が浮き彫りになりました。また、出向者コストの把握や出向先での個人所得税の管理は効率的な経営やリスク管理の観点から本社一元管理が望ましいものの、現地任せになっている企業が未だに多いことが明らかになりました。本社側での赴任者管理体制には、まだまだ改善の余地があります。EYでは今後も同様のサーベイを通じ、企業の課題解決に取り組んでまいります」